李銀河氏インタビュー【前編】

『愛の不時着』北朝鮮ウォッチャーの心に響いた5大シーン! リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)のキスシーンを“北から目線”で考察

2020/07/23 18:30
サイゾーウーマン編集部
Netflix公式サイトより

 Netflixで全世界に配信され、大ヒットとなった韓国ドラマ『愛の不時着』。韓国の財閥令嬢で敏腕経営者でもあるユン・セリ(ソン・イェジン)が、パラグライダーで飛行中に嵐に巻き込まれ、北緯38度線を越え北朝鮮に“不時着”。そこで出逢った北朝鮮のエリート将校リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)は、軍紀を破って、自身の中隊の隊員らとセリを匿い、彼女の帰国の手助けをすることに。そんな中、セリとジョンヒョクは恋に落ちていく――というラブストーリーだ。

 同作は、2人の恋の行方はもちろんのこと、ほかにも見どころが盛りだくさんで、中でも、劇中で描かれる北朝鮮の人たちの生活や文化に興味を抱く視聴者が多い様子。例えば、中隊のメンバーがセリに振る舞う北朝鮮の名物料理「ハマグリのガソリン焼き」には、「一度食べてみたい」といった感想が散見され、またジョンヒョクが住む開城近辺の朝鮮人民軍の舎宅村の奥様たちが、缶ビールと干し鱈で乾杯するシーンには「女子会は万国共通」といった共感も飛び交った。ほかにも、市場、美容院、飲食店、ホテルなどのシーンも注目を浴び、北朝鮮の暮らしに思いをはせる視聴者が続出したのだ。

 そんな『愛の不時着』での北朝鮮シーンについて、「韓国で制作されているため、実際とは異なる描写もありましたが、全体的には、かなり詳しく調査されていると思った」と語るのは、北朝鮮文化に造詣の深い北朝鮮音楽研究家・李銀河(り・うな)氏。彼女も同作にハマッたといい、“北朝鮮ウォッチャー視点”からも心に響いたシーンが多数あったとのこと。そこで今回、李氏に、「私がグッときた5つのポイント」を語っていただいた。

その1:リ・ジョンヒョクとユン・セリの“韓ドラ”キスシーン

ジョンヒョクが、セリを国際水域の大型船に乗せ、韓国に脱出させようとしたところ、北朝鮮の沿岸警備隊の巡視船に見つかってしまう。ジョンヒョクは、“韓流ドラマファン”の中隊員キム・ジュモク(ユ・スビン)に聞いた「韓ドラでは、男女がキスをすることで危機を脱する」という話を思い出し、セリに「驚かずに、僕だけを見て」と告げ、口づけをする

李銀河氏(以下、李) ジュモクが韓ドラの解説をして、それがストーリーの流れを作っていく展開は随所にありましたが、とても工夫されていると思いました。北朝鮮のドラマや映画は、そもそも“思想を広めるため”のもので、またおおっぴらにフリーな恋愛をすることがあまり勧められていないため、キスシーンが基本的にないんですよね。そういった背景を踏まえると、ジョンヒョクが韓ドラにならってセリにキスをしたシーンは、韓国と北朝鮮の文化がうまく対比されているように感じました。ちなみに、北朝鮮では韓国のドラマを見ることが禁止されているのですが、皆さんこっそり見て楽しんでいるようです。しかし、韓ドラを北朝鮮で販売する密売人は、見つかった場合厳しく罰せられ、ヘタすると命が危ない……ということも。

その2:列車で平壌に向かうリ・ジョンヒョク、北朝鮮ファッションが似合いすぎ!

セリの韓国帰国作戦の一環として、パスポート用の写真撮影をすべく、列車で平壌へ向かったジョンヒョクとセリ。車内ではアコーディオンを演奏しながら歌う列車販売員が登場し、乗客たちを盛り上げる。

 私が、最も「ジョンヒョクカッコいい!」と思ったのは、列車のシーンでした。というのも、彼はこのとき、朝鮮人民軍の軍人コートを着ているのですが、本当によく似合っていて(笑)。北朝鮮のファッションって、老若男女問わず、基本的に肩パットがすごいんですよ。スーツのジャケットや人民服でも、とにかく肩が強調されています。ジョンヒョクを演じるヒョンビンは、もともと肩幅が“太平洋のように広い”と言われ、かつスタイルもいいので、なおさら北朝鮮ファッションが似合っていると思いました。


 列車シーンでは、ほかにもグッときたポイントが。列車販売員たちが歌を歌っているのですが、北朝鮮の人たちって、よく職場(工場や建設現場、農場など)で、歌を歌うことにより互いを励まし合い、交流を深めながら、国家と党の思想を宣伝する文化があるんです。労働者たちを応援するために、芸術宣伝隊という歌を歌う人が来ることもあります。また、街のレストランでもウェイトレスさんが歌や楽器を演奏してショーを見せてくれることも多いです。なので、あの列車のシーンは、とてもリアリティがあると感じました。歌も実際の北朝鮮映画『我ら列車販売員』の劇中挿入歌なんです。


愛の不時着 オリジナル・サウンドトラック