『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』仕事ひとすじの夫を支えた妻の決断「真夜中の洋菓子店 ~ケーキよりも大切なもの~」

2020/07/06 19:05
石徹白未亜(ライター)

優しさで活路を見いだす木村の生き方

 これは、木村の人柄によるところが大きいように見える。番組での木村は、とにかく優しい。コックから洋菓子職人に転身したのも、生きた魚介をさばいたりできないというエピソードからして、それがわかるだろう。

 一方で、木村のそうした性格は、残ったケーキを廃棄できず夜中まで店を開けていたり、大粒の真っ赤なイチゴなど高そうな材料を使いながら、ケーキの値段をそこまで上げられないという、商売っ気のなさにもつながっている。木村は「ケーキ職人」としては一流だが、冷徹な判断が求められる「経営者」向きではなかったのだろう。

店の最終日、にこにこ庵は常連客や従業員、木村の旧友たちからの花束であふれていた。「ケーキがすごくおいしい店」だけでは、こうしたお見送りにはならないだろう。店を閉めてからも、後輩から誘われ、雇われの菓子職人として再出発する。「後輩から誘われる」というのも、木村の人柄の良さを物語っているだろう。

木村には、余計なプライドや気難しさがなく穏やかだ。優しさは時に木村の弱点でもあるが、それで周囲から慕われているのだし、優しさで木村は自分の人生を切り拓いているともいえる。木村のケーキを一度、食べてみたいと思った。

 次週のザ・ノンフィクションは「お父さんと13人の子ども 前編~7男6女 闘う大家族~」。大阪駅前の地下街で居酒屋を家族経営する澤井家は7男6女の15人家族。しかし長男が突然家を飛び出し、さらに新型コロナの脅威が澤井家にも影響を及ぼす――。


石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2020/07/06 19:05
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好きなことを仕事にしてからが大変、という貴重な教え