コラム
【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

GHQも呆れるニセ天皇の嘘八百! それでも野望を捨てぬ熊沢天皇に最強のブレーン現る!?【日本のアウト皇室史】

2020/06/20 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1946年から1954年までかけて昭和天皇は全国をめぐり、日本中の人々と触れ合う機会を設けた。いわゆる「戦後巡幸」だが、反射神経的に土下座してしまう人々を制止するのに苦労したという(Getty Imagesより)

――戦後、天皇の存在は「国民統合のシンボル」となりましたが、その適格者であることを昭和天皇は身を以て証明なさったのですね。

堀江 そうです。しかし熊沢天皇が昭和天皇の全国巡幸を追いかけ、対面を迫るようなことがありました。まぁ、全部断られるのですけれど。

 こうした天皇家に近づこうという活動にも資金が要ります。熊沢寛道は自分の持っていた土地を地価の3分の1程度で売り飛ばして、活動資金を得たなどと言っていましたが、実際は熊沢一族に泣きついて、金を借りていたようです。

――「天皇宣言」をしたばっかりに、どんどん大変なことになっていっているのがわかります……。

堀江 昭和24~25年ごろ、困窮した熊沢寛道が、親戚の熊沢栄一郎に金の無心に現れた時、「君は悪いやつらに利用されている。熊沢天皇などと自称して回られても困るんだ。たいがいにせい!」などと怒られ、なんの反論もできない姿を親戚の家の子に目撃されています(『天皇の暗号』)。

 それでも仲間は現れました。正統の天皇を自称する熊沢の主張に、もともと先祖が南朝に仕える武士だったという吉田長蔵(よしだ・ちょうぞう)という、歴史好きのインテリが感化されてしまい、熊沢天皇のブレーンとして活動を共にするようになっていたのです。天皇を訴えるという大それた行いは、吉田の入れ知恵でした。

――吉田は熊沢を利用したのか、それとも逆に熊沢に利用されていたのか……。

堀江 吉田長蔵は、学問的に熊沢の主張のあやふやな部分を補強して回ったりしていました。後には熊沢の名前で論文を書いて発表したり、自分の名義では『熊沢天皇の真相』などの著書も書いています。まあ、吉田長蔵の文筆家としての活動は、「熊沢天皇のブレーン」という肩書あってのことでしたから、持ちつ持たれつの共犯関係だったのかもしれません。

 しかし、メディアに露出していったことがきっかけで、仲間を装った思わぬ「刺客」が現れることもありました。

――それって、もしかして有名人にすりよって、自分が有名になろうとする悪い人のことじゃ?

堀江 当たりです。熊沢は友だち(フレンド)のフリをした敵(エネミー)こと、フレネミー作戦に引っかかってしまったのですね。

 昭和23年(1948年)11月、熊沢のもとを「弁護士・法学博士」の肩書を持つ瀧川政次郎なる人物が尋ねてきました。この時、瀧川は熊沢の主張は「日本史の大問題」などと言い、「いずれ(南朝の宮廷があった)吉野へもご一緒しましょう」と言って去ったそうです。それから約1年後、実際に熊沢寛道と瀧川政次郎は吉野(奈良県)へ旅行することになります。そして、瀧川によるルポ記事『熊沢天皇吉野巡幸記』が「文藝春秋」(昭和25年1月号)に掲載されたのでした。これは熊沢天皇にとっては、非常にイタい、問題の記事となります。

――どんな記事だったのでしょうか。次回につづきます。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2020/06/20 17:00
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