老いてゆく親と、どう向き合う?

認知症の父が土下座で「至らない人間で申し訳ない。許してほしい」――介護する娘に、頭を下げた

2020/05/03 18:00
坂口鈴香(ライター)

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。シングルマザーの春木直美さん(仮名・53)の話を続けよう。脳梗塞を二度起こした母・八重子さん(仮名)、心疾患を抱える父・謙作さん(仮名)の二人を介護をしていた直美さんは、退院して自宅に戻った謙作さんのひどいせん妄で疲れ果て、自宅介護は限界に達していた。孫を置いて仕事に行こうとする娘、ひとみさん(仮名・27)にキレてしまうほどだった。

(前回:「父のせん妄で、もうめちゃくちゃ」育児と仕事、両親の病――追い詰められた自宅介護の果てに……

「非常識だ」医師からの激怒

acworksさんによる写真ACからの写真

 病院は受け入れてくれず、ケアマネは相談にも乗ってくれない。直美さんが最後に助けを求めたのは、謙作さんが心不全を起こしたときに診てもらったクリニックの医師だった。

「このままじゃ、私は死んでしまう。もう3日も寝ていないんです。父の下血は鮮血なんです」と窮状を訴えた。


 直美さんは以前、病状が安定した患者が在宅復帰に向けた医療を行う「地域包括ケア病棟」というものがあることを前にケアマネから聞いていたので、「地域包括ケア病棟に紹介状を書いてほしい」と頼み込んだ。

 だが、医師に書いてもらった紹介状を手に、地域包括ケア病棟のある病院に駆け込んだ直美さんは、そこの医師に激怒されたという。「急に来て、入院させてくださいなんて非常識だ」と。

 直美さんは、紹介状を書いてくれた医師にお詫びの電話を入れた。そして数日預かってくれる施設すら紹介してくれないケアマネを電話先で怒鳴った。

 途方に暮れていた直美さんに、救いの手が伸びた。紹介状を書いてくれたクリニックの医師が地域包括ケア病棟の担当医に直接電話をしてくれたのだ。激怒した医師も謙作さんの状態が良くないことがわかり、病院のベッドを空けてくれた。

 よかった、というべきなのだろうか。いや、こうまでしないと誰も動いてはくれないということなのだ。すべての扉を閉められて、追い詰められている親や家族がいったいどれくらいいるのだろう。それを考えると、暗澹たる気持ちになる。


親の認知症に気づいたら読む本