オンナ万引きGメン日誌

地下食品街を荒らす「カフェ店主」摘発! 「万引きで仕入れ」大胆すぎる手口にGメン衝撃

2020/03/28 16:00
澄江(保安員)

ここでも、絶対にやる――ベテラン万引きGメンの予想的中!

「常習者の捕捉に務めよ」

 事務所からの単純な指令を胸に巡回を始めると、2時間ほど経過したところで、精肉店にいるエプロン姿の中年女性が気になりました。一見して40代前半くらいでしょうか。どことなく尼神インターの渚さんに似た彼女の、カゴの中で落ち着きなく蠢く右手が気になったのです。少し離れたところからカゴの中に目をやると、いくつかの精肉パックのほかに、大きく口の開いた黒いエコバッグが入っているのが見て取れました。何気なく近づき動向を見守れば、ほかの客に紛れながら、カゴの中に入れた精肉パックをスライドさせる形でバッグの中に隠しています。

(随分、大胆ね。まだやるかしら)

 カゴの中の商品を隠し終えた彼女は、続けてソーセージを手にすると、カゴの中に入れるふりをしながら、それを直接バッグの中に隠しました。ここで声をかけてもいいくらいの状況にはありますが、法的な解釈をもとに考えれば、より慎重に、言い逃れのできない状況を作らなければなりません。そそくさとカゴを戻して精肉店をあとにする彼女の追尾を続けると、何度か後方を気にしながら、珍しい商品が多数並ぶ隣接の輸入食品店に入っていきました。狭く入り組んだレイアウトが個性的な、とても万引きしやすい造りの人気店です。

(ここでも、絶対にやる)


 犯行に及ぶことを確信して、店外から彼女の行動を見守ると、チーズやコーヒー、舶来モノのビスケットなどの商品を手に取り、次々とバッグに隠していくのが見えました。犯行の現認は充分なので、無理してみることはしません。なるべく遠くから彼女の手元だけを視界に入れて、店の外に出るタイミングを伺うのです。なに一つ精算することなく、持参したバッグを大きく膨らませて駅側出口の扉を跨いだ彼女に、そっと声をかけます。

「すみませ……」

 声をかけると同時に、私を振り払って走り出した彼女は、自動改札を突破して駅構内に逃げ込んでいきました。彼女の行く方向を確認しながら、首かけ式のパスケースに入れてあるSuicaを自動改札機に慌ててタッチして、その後を追います。するとまもなく、乱暴に開かれた鉄扉が立てる破裂音と共に、駅員さんが飛び出してきました。ものすごいスピードで後方から私を追い抜くと、一段飛ばしで階段を駆け上がり、彼女の後を追いかけていきます。

「お客さん、改札通ってないですよ!」


カフェをはじめる人の本