サイゾーウーマンカルチャーインタビューフランス人も悩む「完璧な母親像」とは カルチャー 【前編】『私のおっぱい戦争』リリ・ソン氏インタビュー 『私のおっぱい戦争』リリ・ソン氏に聞いた、フランス人も悩む「完璧な母親像」「女性らしさ」とフェミニズム 2020/02/05 21:00 相川千尋(フランス語翻訳者) インタビュー フェミニズムは男性から男らしさを奪うものではない ──最近、フランスでは、歴史家で男性作家のイヴァン・ジャブロンカが男らしさの歴史を論じた『正しい男たち』(未邦訳)という本が出版されたそうですね。女性の権利を踏みにじらない、新しい男らしさについて考えようという本で、男性たちに向かって特権を放棄し、公正な男になろうと呼びかける内容だと聞きました。2万5,000部も売れたとフランスのメディアで話題になっていましたが、フランスでは、男性の間にもフェミニズムへの関心が広がっているのでしょうか。 リリ 実際にこの本を買っているのが誰なのかは、わからないですよね。女性読者が買っているのかもしれません。でもそれは結局どちらでもいいことだと思います。 女性読者の一人ひとり、フェミニスト一人ひとりが、近くにいる父親や兄弟、パートナーの男性に影響を与えることができます。一番大事なのは、このように近くにいる人の意識を変えていくことだと思います。私の場合、父とパートナーの考え方が、ものすごく変わりました。 ──『私のおっぱい戦争』では、リリさんのパートナー・マルタンさんの包容力のある行動が印象的でした。優しい言葉をかけたり、術後のケアをしてくれたりしていますよね。日本人の女性読者の中では「こんなに優しく、理解がある男性がいるなんて!」という驚きの声が上がっています。一般化するのは難しいかもしれませんが、フランスには、マルタンさんのような優しい男性が多いのでしょうか? リリ 笑ってしまうのですが、男性を含め読者のみんな、マルタンの魅力のとりこになるんです。読者は、マルタンの私への関わり方を見て、彼に魅力を感じるようですが、当時の状況を考えてみると、彼の態度はむしろ普通だと思います。 もしかすると、それは「愛」というものの定義の問題なのかもしれません。誰かを愛していて、その人を失うかもしれないとなったとき、いつも以上に親切で優しくなるのは普通のことではないでしょうか。がんのような経験は、感情を明らかにする“触媒”のようなものだということを忘れてはいけません。つまり、愛情や友情を破壊することもあれば、逆により強固にするケースもあるということです。 「フランス人男性は優しい」という話ですが、ほかの国と比べて特に優しいとは思いません。でも、「男性はフェミニストであればあるほど優しい」ということだけは確かだと思いますね。また、フェミニズムは男性から男らしさを奪うものといった意見もありますが、そうではなく、むしろより知的で誠実な男らしさをもたらすものだと私は信じています。 ――後編はこちら リリ・ソン(Lili SOHN) 1984年8月29日ストラスブール生まれのフランスのコミック作家。本名オーレリー・ソン。ストラスブール第二大学で応用美術とヴィジュアル・アートを学ぶ。乳がん発覚をきっかけに、自らの日常と病気についてユーモアを交えて語るオールカラーの漫画ブログを開設。のちに、ミシェル・ラフォン社からコミックとして出版された。2015年、治療終了にともないフランスに帰国。現在はマルセイユに住み、コミックとイラストの制作を行っている。 プレゼント企画 『私のおっぱい戦争──29歳フランス女子の乳がん日記』は花伝社より発売中。 サイゾー・ウーマンの読者2名様に本書を抽選でプレゼントします。 応募締切:2020年3月5日(木)正午まで 応募は締め切りました。※当選者の発表は発送をもってかえさせていただきます。あらかじめご了承ください 前のページ123 相川千尋(フランス語翻訳者) 1982年生まれ。仏和辞典編集を経てフランス語翻訳者に。訳書にリーヴ・ストロームクヴィスト『禁断の果実- 女性の身体と性のタブー』(2018年、花伝社)。共訳にジュリア・カジェ『なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか』(2015年、徳間書店)。 X:@Chichisoze 最終更新:2020/03/05 19:26 セブンネット 私のおっぱい戦争 29歳・フランス女子の乳がん日記 「母」の悩みは海を越えて共通のよう 関連記事 【2019年映画レビュー】フェミニスト視点で「オススメ」「イマイチ」作品は? 北村紗衣氏に聞く「フェミニストって、なに?」座談会【後編】日常で“違和感”“疑問”を感じたら変わるとき「フェミニストって、なに?」座談会【前編】ネットでヒステリックで怖いと言われるのはなぜ?男もファッションも大好きなフェミニストが、「男らしさ」に苦しむ男性も救う?トップレス写真で大炎上中のエマ・ワトソンが「フェミニズムは、ほかの女性を叩くために団結することじゃない」 次の記事 V6・坂本、ジュリー社長に歯向かう >