サイゾーウーマンコラムオンナ万引きGメン日誌万引きGメンが尊敬してやまない大先輩 コラム オンナ万引きGメン日誌 ベテラン万引きGメンが尊敬してやまない大先輩、「催事のスペシャリスト・敬子」の思い出 2020/01/25 16:00 澄江(保安員) オンナ万引きGメン日誌 お母さんのように万引き犯に語りかける敬子さん 「お客様、お待ちくださいませ。お支払いしていただかないといけないものがございます」 高級店における声かけだからか、不自然なほど丁寧な口調になってしまい、それを聞いた敬子さんも笑いを堪えているように見えました。 「これのことですか? 混んでいたので、あとで払おうと思っていたんです。いま払いに行きますね」 ショルダーバッグから、隠した財布を取り出してみせた彼女は、意味不明な言い訳をしてホテルに戻ろうと歩き始めます。すっかり動揺してしまい呆然としていると、ショルダーバッグのハンドルを咄嗟に掴んだ敬子さんが、有無を言わせぬ威厳のある態度で彼女に言いました。 「あなた、そんな言い訳は通らないわよ。わかっているでしょ?」 「はい、ごめんなさい……」 思いのほか強烈だった敬子さんの迫力に、すっかりたじろいだ様子の彼女は、事務所までの同行を求めると素直に応じてくれました。 「今日は、どうしたの? なにか、嫌なことでもあった?」 「ちゃんと買うつもりで来たんですけど、お金を使うのが嫌になっちゃって……」 スナックの雇われママを生業にしているという彼女は、29歳。お母さんのように話しかける敬子さんに、すっかり心を開いているように見えます。事務所に到着して、テーブルの上に盗んだモノを出してもらうと、高級財布のほかに、ネクタイピンとカフスもショルダーバッグから出てきました。全て3つずつ盗んでいるので、その理由を尋ねれば、複数の馴染み客にプレゼントするつもりだったと話しています。盗んだ商品は、いずれも高級品で、被害総額は15万円を超えました。被害届が出されれば、逮捕必至の状況にありますが、お店側は買い取ってくれればいいという姿勢でいます。どうやら会場がホテルということもあり、警察沙汰を起こしたくないというのが本音のようです。商品を買い取れるだけのお金を用意できるか尋ねると、20万円以上の現金を所持していたので、警察は呼ばずにコトを済ませることになりました。敬子さんと2人で、被害品の精算を済ませた彼女を店の外まで見送り、帰りの道中に話を聞きます。 「あの人がやるって、どうしてわかったんですか?」 「目よ。どう見たって、買い物する目じゃなかったでしょう?」 「確かに……」 催事のスペシャリスト、敬子。職員の間で敬遠されるほど厳しい現場で、数々の高額品狙いを捕捉してきた敬子さんは、65歳で引退され、82歳でご逝去されました。最後にお会いした時には、随分と認知症が進んでおられたようで、私のことを孫と勘違いされ、とても優しくしてくださったことを覚えています。晩年は、警察や万引きの実録番組を楽しみに過ごされたそうで、その時に限って饒舌になられたと、娘さんから聞きました。おそらくは、人生の大半を費やしたであろう自分の仕事に、誇りを持っておられたのでしょう。 (私も、そろそろかしらね……) 1日の勤務を終えても疲れを感じさせないほど、軽快な足取りで歩く新人さんの背中を見送った私は、迫りくる自分の終末を意識しました。次のお休みは、亡き敬子さんの墓前に伺い、お花を供えたいと思います。 (文=澄江、監修=伊東ゆう) 前のページ123 澄江(保安員) 万引きGメン(保安員)歴40年以上。スーパーで品出しのパートをしている時に、万引き犯を捕まえたことがきっかけで、この世界に。現在も週5日は現場に立っている。 記事一覧 最終更新:2020/01/25 16:00 Yahoo 新品本/万引きGメンは見た! 伊東ゆう/著 「敬子ねえさん」と呼びたくなる 関連記事 サッカー部の万引き少年が、逃走中に事故! 右足があらぬ方向に……それでも「同情できない」Gメンの胸中万引き犯に「おれと結婚してくれないか」と口説かれ……Gメンが呆れた「生活保護老人」の顛末「人間のクズ」と店長戦慄! 万引きGメンに捕まった少女、その両親の恐るべき“復讐”とはさっき捕まえた「ヨーダ似の老婆」舞い戻ってきた!? 万引きGメンの「世にも奇妙な物語」万引きGメンの息子が、スーパーで「万引き」! 「親子で何やってんだよ」店長さんの痛烈な皮肉 次の記事 天皇に仕える女官は プロ彼女? >