老いゆく親と、どう向き合う?

パート先の介護サービスがきっかけに――老夫婦、妻の決断「夫のことは支えるが……」

2020/01/26 19:00
坂口鈴香(ライター)

その男性の存在に救われた――夫を支えようと思うが、もう好きではない

「その人に家の話をするようになって、ずいぶん救われました。その人も送迎のアルバイトをするくらいだから、事情はうちと似たりよったりだったんだと思います。夫のことを打ち明けると、『男ってそんなものですよ。何も言わなくても、つらい思いをしているはずなので、今は黙っておいた方がいい』と言ってもらい、そんなものかと思えるようになりました」

 その後、その男性は再就職先が見つかり、運転手を辞めた。折田さんは、保育士の通信教育を受け、猛勉強をして保育士の資格を取った。今は保育所の非常勤職員として働いている。稔さんも、小さな会社に再就職することができた。

「夫もなんとか就職できてホッとしましたが、お給料は悲しいくらい安いです。週末には、お小遣い稼ぎのために近くのホームセンターで駐車場の誘導員をしています。そんな姿を見ていると、バリバリ稼いでいたころの夫と比べてしまうし、かわいそうだなと思います。縁があって家族になったんだから、義父のように夫を支えていかなくてはならないとも思っています。ただ、夫のことが今も好きか、と問われれば、もう好きだとは思わないです」

 折田さんは、今でもデイサービスの運転手だった男性とときどき会っている。

「その人とお茶を飲みながら、たわいもな話をするのが今の一番の楽しみ。そういう存在の人がいるだけで、私の人生も捨てたもんじゃないなと思えるんです」


 LINEでやりとりもしている。後ろめたいことはしていないというが、子どもに見られて誤解されたくないので、すぐに消している。そして、折田さんはまもなくおばあちゃんになる。

「苦労させてしまいましたが、子どもたちも社会人になりました。長女は家庭を持って、もうすぐお母さんになるんです。これでようやく一段落ついたなと思っています。これからどんな人生が待っているかはわかりませんが、長女が夫婦で支え合って、家庭を築いていければそれでいいと思います」

 折田さんのスマホには、時おりLINEの着信を知らせる音が鳴っていた。折田さん夫婦の「つじつま」はどこで合うのだろう。

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2020/01/26 19:00
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