『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』元受刑者への支援は“甘え”なのか?「半グレをつくった男 ~償いの日々…そして結婚~」

2019/09/24 16:27
石徹白未亜
『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。9月22日の放送は「半グレをつくった男 ~償いの日々…そして結婚~」。“最凶”の半グレ集団「怒羅権(ドラゴン)」の創設メンバー汪楠(ワン・ナン)は現在受刑者や出所者を支援する活動を行っている。改心のきっかけと活動の日々を追う。

あらすじ

 中国出身の汪、47歳。中国残留日本人だった継母の帰国について来て日本に移り住むも、壮絶な差別やいじめから日本社会への怒り、恨みを募らせ、半グレの元祖となる組織「怒羅権」を結成する。酒席でのトラブルになった相手の腕を日本刀で切り落とすなど凄惨な日々を過ごし、28歳で4度目の逮捕となる。裁判官が汪の愛読書『阿Q正伝』(角川文庫ほか)を読み汪を理解しようとしたことや、服役中に多くの支援者からの手紙が届き改心。現在は受刑者に本を差し入れたり、出所後の元受刑者をサポートする日々を送る。活動の運営資金はギリギリで、また、元受刑者の金の持ち逃げなど裏切りも受けるが、彼を理解する女性と出会い、支援者に囲まれた中で結婚式を挙げる。

裏切られても支援する大変さ

 今回まず驚いたのが「刑務所はエロ本OK」ということだ。汪の活動は年間2,000円を払えば受刑者の希望する本を送るというもので、受刑者の希望書籍のタイトルに「しゃぶり尽くしフェラガール」という、どう考えてもエロ本だろうものがあった。

 刑務所の中では「成人指定」の書籍や雑誌はダメで、せいぜい性描写ががっつりしている小説『ノルウェイの森』(講談社)あたりで妄想するのが刑務所性生活だと、私は思い込んでいた。サイゾーウーマンでも中野瑠美さんが「知られざる女子刑務所ライフ」を連載しているが、“塀の中”はこの情報化社会においても秘境なのだと改めて思う。

 受刑者に本を送る活動資金はギリギリだ。年間2,000円の会費で受刑者に書籍を送るものの、番組内でその支払いができているのは全体の10分の1もいない、と伝えられていた。


 さらに汪は出所後の元受刑者を自宅に住まわせたり、役所での手続きや就職先の紹介など献身的に面倒を見るのだが、そのうちの一人、ワタル(仮名)は、汪の妻が活動のために寄付した50万円のほとんどを持ち逃げしてしまう。

 ワタルは持ち逃げした金で“飛ぶ”わけでもなく、別の出所者、ケンジ(仮名)が暮らす予定だったアパートで勝手に暮らしていた。放送されている中では、ほとんど敷きっぱなしの布団の上でタバコをふかしていて、何をするわけでもない。汪に見つかったあとも、金の持ち逃げに対し一切謝罪せず、やたら饒舌に言い訳をする姿がなんとも見苦しく、腹立たしい。

 半グレ時代の汪は、酒席のトラブルで相手の腕を日本刀で切り落とし、ケンカ相手を横浜ベイブリッジの上から突き落とした荒くれ者だ。このとき、私も含めた視聴者の多くが「汪さん、やっちまえよ」と思ったことだろう。

 しかし汪はワタルに制裁を加えず警察に突き出すこともせず、ただ黙って部屋を出る。そして「(出所後の人を)サポートしたからって、どんだけ本人を助けるか微妙、ガス抜きにしかならないけど。ちょっとした期間延ばすだけでもいいとする」と淡々と話す。この発言からは、立ち直りがたやすいことではないこと、また一方で、それでも立ち直りを支援する活動を続ける汪の、人並外れた使命感や愛情を感じた。

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