【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

小室圭さんはある意味“伝統的”!? 皇女&一般人カップルに向けられる「疑い」の歴史【日本のアウト皇室史】

2019/09/07 17:00
堀江宏樹

ダメ男との結婚に苦しみつつ、きっちり仕事をこなした女王も

堀江宏樹さん(撮影:竹内摩耶)

――外国には、プリンセスを悪用したケースはあるんですか?

堀江 ヨーロッパには、けっこうリアルにハンス王子みたいな人たちがいますよ。例えば、“処女王”と呼ばれた17世紀イギリスの女王・エリザベス1世は生涯独身を貫いています。結婚しなかった理由は、女王の夫をどう扱うかという問題で国が分裂・崩壊しかねないから。求婚者はかなりの人数がいたようですが、誰かを選んで結婚すれば、選ばれなかった人たちにカドが立ちます。結婚後、キャラが豹変して「自分は女王の夫だぞ!」と権力を振いたがる男だとしたら、最高権力者が女王なのか、それとも彼女の夫なのかわからなくなるでしょ。国内外ともに政情が不安定だったこともあるけど、だから求婚を断り続け、一人で過ごすという決断したんだと思います。

――英国王室には女王でも結婚できるし、子供を持てるという習慣があるのに、つらい判断ですね。

堀江 エリザベス1世とは違い、結婚はしたものの、夫が「君の代わりに僕が政治をしてあげよう。自由にしてあげよう。そのかわりに僕を国王にしておくれ!」とささやき続けてくるのを、必死でハネつけ続けた女王がいます。 

 16世紀初め、カスティーリャ王国の女王になったファナという女性がいました。カスティーリャ王国は現在のスペイン王国の前身(の一つ)です。ファナには“美男”と、もてはやされたフィリップという夫がいました。ただ、フィリップの肖像画を見る限り、受け口のウマヅラで、本当に美男なのかは不明……なんですが、ファナは彼のことが大好きでした。しかし、この男は女癖の悪いダメ亭主。ファナは、彼の女性関係や暴力などが原因で狂気に陥りましたが、カスティーリャ女王の位を自分の手からは最後まで離しませんでした。ダメ男を愛するというプライベートと、女王としての仕事を、重い心の病に苦しみながらもきっちりこなしたという点で、ブラボーな女性です。


――結婚しても、しなくても女王の人生はハード……。反対に、女王と一般人のカップルで、成功した方はいないんですか?

堀江 大英帝国が一番輝いていた19世紀のイギリスに、長年女王として君臨したヴィクトリア女王と、夫のアルバート公の二人は、仲睦まじかったと言われています。ヴィクトリアが一目惚れした末の恋愛結婚ですが、アルバートは王家の出身ではなくドイツ人貴族にすぎなかったため、つらい思いをし続けたとか。あまりにも身分の差があったため、アルバートは、イギリス中から「彼女を己の欲望実現のために利用するんじゃないか」と疑惑の目を向けられていたんです。でも、実際は“逆”だったとか。小柄で太っていて超暑がりのヴィクトリアは、真冬でも暖炉に火を入れたがらなかったそう。

 そして、あまりの寒さに耐えかねたアルバートが部屋を暖めようとしたところ、ヴィクトリアは「女王は私なのよ!」と一喝したなんてエピソードが残っています。そんな短気でわがままな女性を支え、ヴィクトリアが妊娠・出産している際は、アルバートが国王代理みたいな存在ですらあったのに、イギリス国民全体から警戒され続け、アルバートは約17年もの間、「殿下」の称号すらもらえなかったそう。

 ロイヤルウェディングの瞬間は、どこの国でも華やかなものです。このお二人の逸話からもわかるように、結婚はゴールではなく、一生をかけて、「自分は皇族/王族にふさわしい人物であるか」を証明し続けることの方が重要なのかもしれませんね。

堀江宏樹(ほりえ・ひろき)
1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。2019年7月1日、新刊『愛と欲望の世界史』が発売。好評既刊に『本当は怖い世界史 戦慄篇』『本当は怖い日本史』(いずれも三笠書房・王様文庫)など。
Twitter/公式ブログ「橙通信


最終更新:2019/09/18 14:35
愛と欲望の世界史
時代と国が違っても、人間が考えることは同じ