【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

寵愛した“巨根”男性を天皇に!? 公私混同で国民総スカンの「嫌われ女帝」とは【日本のアウト皇室史】

2019/08/10 17:00
堀江宏樹

有吉弘行顔負けの悪口のセンス?

八幡総本宮 宇佐神宮公式サイトより

――腕力で解決しちゃうとは、良く言えばアクティブな女帝なんでしょうけどね。

堀江  いや、それはどうだろ。戦いを選んだ時点でえらいことになります。そのガチの戦争というのが、764(天平宝字8)年に勃発した「藤原仲麻呂の乱」と呼ばれる戦。ここで藤原仲麻呂と孝謙さまは戦い、孝謙さまが見事、勝者となりました。敗者である藤原仲麻呂の一族は、(ほぼ)皆殺しされます。名実ともに最高権力者となった孝謙さまは、周囲を見渡し、「私のおメガネにかなう男性皇族なんかいない! 古代中国の易姓革命を真似て、現在の天皇家とは違う一族に天皇位を任せることにしよう!」的なコトを言い出し、彼女が慕う道鏡を天皇にしようと画策しはじめます。

――さすがにこれは公私混同も甚だしいですね!

堀江 すでにこの時代から、天皇“個人”というよりも天皇“家”という“血筋”を重視する傾向があったので、周囲の人々もさすがにダメだろ~と困り果てていたとか。天皇家の血筋が道鏡の生まれた一族である弓削(ゆげ)氏に世襲されることになると、それはつまり、「史上初の民間天皇」が誕生してしまうことになるんですから。

 そこに和気清麻呂 (わけのきよまろ)という役人が、宇佐八幡宮から「神様が、そんなテキトーな譲位はダメだとおっしゃっている!」という神託を持ち帰りました。向かうところ敵なしの孝謙さまに、果敢にもそう報告するのですが、激怒した孝謙さまは彼のことを「別部穢麻呂(わけべのきたなまろ)」という、いかにも“汚そう”な名前に改名させ、職を解任・流刑してしまいます。それにしても、すごいアレなセンス。


――穢麻呂(笑)! 有吉弘行に並ぶ悪口のセンスですね。しかし、そういう事情があって、孝謙天皇の人気は歴代天皇の中でもかなり低いんですね。

堀江 そうですね……。少なくとも孝謙さまは、「女帝はその場しのぎでしかない」という、皇室の伝統にガチで抵抗した存在だといえます。古代人の孝謙さまですら、そう感じるわけで、なんで女帝は結婚しないの? できないの? という現代人が持つような疑問は、古くからあったはず。特に当事者として、「未婚でいなさい。それが伝統だからです」と言われても納得できないことは多かったと思います。古くからの伝統であればあるほど、理性や常識に照らすと、多くの疑問が出てきますが、そういう伝統を疑わずに信じ、受け入れて、真っ直ぐに生きて行ける人こそが、男女問わず望ましい帝位の後継者だと言えるんでしょうね。

 次回以降も、歴史の中の破天荒な天皇家の方々の姿を追いかけていきたいと思います!

堀江宏樹(ほりえ・ひろき)
1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。2019年7月1日、新刊『愛と欲望の世界史』が発売。好評既刊に『本当は怖い世界史 戦慄篇』『本当は怖い日本史』(いずれも三笠書房・王様文庫)など。
Twitter/公式ブログ「橙通信


最終更新:2019/09/18 15:28
愛と欲望の世界史
歴史上の人物として聞く分には、孝謙天皇のような女帝もアリ