『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』おしゃれメシに変わる公的施設の懐かしい味「社長と竜造 葛西臨海公園物語」

2019/07/23 12:34
石徹白未亜
『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。7月21日放送のテーマは「社長と竜造 葛西臨海公園物語」。国内外に飲食店を運営するゼットンが社運をかけた葛西臨海プロジェクトに挑む。

あらすじ:社運をかけた一大プロジェクトに抜てきされる

 ゼットンが挑む葛西臨海公園プロジェクトは、BBQ広場とレストランのリニューアル、無料休憩所のカフェへの改修、BBQ施設の立ち上げ、さらにガーデンウェディング施設といった5つにわたる大掛かりなものだ。ゼットン・鈴木伸典社長から突如、責任者に抜てきされた松山竜造は、通常の店舗運営も行いながらも、この大型プロジェクトに取り組むことになる。

「とりあえず終わってよかったね」に残るモヤモヤ

 まず思ったのは、この社運をかけたプロジェクトに竜造が取り組むなら、竜造が普段行っている13店舗もの飲食店の運営 (うち一店舗はリニューアルも含む)という通常業務は、ほかの誰かに任せられなかったのだろうか、ということだ。通常業務と新規プロジェクトを並列して走らせる竜造は、番組内でスケジュールをすっぽかすミスをしており、迂闊な自分を責めていた。しかし、これほど忙しければうっかりミスも起きるだろう。

 社長及び上層部もしくは企業風土が、通常業務を「ほかの人に任せるのを許さなかった」というならブラックだと思うが、竜造自身が「任せなかった、任せたくなかった」のかもしれない。もし後者の場合なら、竜造は自分のすっぽかしのミスを責めるより、人を使う立場の自分が、仕事を背負いすぎてしまうことを責めた方がいいのではないかとも思う。

 番組は、忙しかったけど無事終わって良かった、これからも頑張ろう、という社長と竜造による美談といった形で終わった。しかし、どうも見ていて違和感があった。仕事が終わったタイミングで、またこんな大変な目に遭わないため、今後何をしていくべきか? と反省することなく、「とりあえず終わってよかったね」で済ませてしまう。それは、別にゼットンに限らず、多くの会社が似たようなことをしているのだが。


 そんな社長は、創業家の跡取りでなく、たたき上げで社長になったやり手だ。竜造へのダメ出しは、感覚的ではなく理屈がちゃんと通るものだった。

 例えば、メイン利用層は幼い子どもを連れて公園に遊びに来る母親であろうカフェにおいて、竜造が開発したセットメニューは「ピザ、フライドポテト、フライドチキン」。そこに、コールスローサラダをつけるように指摘するなど、ごもっともなのだ。確かに、竜造の考えた組み合わせではカラオケで出てくる「おつまみセット」すぎる。

 社長の風貌は、糸井重里をベースに萩原流行をちょい足しして2で割ったような感じで、明るく染めた髪とピタッとした明るい色のジャケットを着こなす姿は、メディアで紹介されるような“ギラギラ”とした港区の社長そのものの佇まいだ。番組を見る限り、社員の多くも「ザ・港区」な感じだったが、一方の竜造はどこかのほほんとしており、社運をかけたプロジェクトに抜てきされても「やるぞ!」と燃え上がるわけでもなく、むしろ明らかに困っていた。

 どこかおっとりした竜造は、咲くべき場所が違うのではないのかとも思えたが、「ザ・港区」な社長と、そういう社員が多いギラギラした会社だからこそ、そうじゃない社員がいるのは、ゼットンのためにもいいのだろう。社長も、竜造の優しさやホスピタリティを評価していた。会社への愛情や忠誠心はありつつも、会社のカラーとは少し違う人という存在は、組織に多様性をもたらす貴重な存在なのだと思う。

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