「炎上作家・のぶみ」「道徳、出オチ絵本」――子どもにとって“良質な絵本”とは何か?
古典を読ませるべきか、今の時代に合った新しい本を読ませるべきか――。親世代を悩ませる絵本選び。親がいいという絵本に子どもが興味を示すとも限らない。一方、子どもが「面白い」と思っても、親にはピンと来ないものもある。読み聞かせに最適な、子どもにとって良質な絵本とはどのようなものか。絵本コーディネーターの東條知美さんと、図書館司書の神保和子さん、絵本の編集者である北尾知子さん、そして「絵本好き」であるワーキングマザーの大内めぐみさんによる座談会の後編をお届けする。
――絵本の選び方について悩んでいる人も多いと思います。大人の考える良質な絵本が、必ずしも子どもが読みたい本ではない場合もあるように感じますが。
神保和子(以下、神保) 親の価値観と子どもの好きなものは違うので、やっぱり親の価値観を押し付けず、その子が興味を持ったことを、大らかに受け止めてほしいですね。知人のお子さんが、電車の絵本しか読みたがらず、「親としてはいろいろ本を読ませたいんだけど……」と最初は悩んでいたんですが、結局あきらめたそうなんです。今、その子は電車の運転手をしていますよ。
北尾知子(以下、北尾) それ素敵なことですね。
神保 子どもには個性があるのに、「これが子どもにとっていいものだから」という同調圧力が強いのでしょうか。
北尾 「よそはよそ、うちはうち」と言わなくなりましたね。子どものとき「◯◯ちゃんの家にはゲームがあるよ」と言っても「よそはよそ」と言われたものですが、今は横並びで同じようにならないといけないという風潮。
東條知美(以下、東條) だから平均的な子が増えるんでしょうね。ただ、親の価値観に合わない本は、親も「嫌」と言っていいと私は思いますよ。
大内めぐみ(以下、大内) そうですよね。「お母さんはこの本は好きではない。それはこういう理由だから……」と伝え合う会話もコミュニケーションの一つ。どんな絵本を読むかより、その時間を持つことの方が大事なのでは。私個人としては、具体的にどの本がいいかといえば、迷うならまず、昔からある名作で足りると思っています。まず親が子どもと一緒に楽しむ一歩としてなら、それくらいの量でいい。時代を経ても残っている名作は、どの時代に読んでも人が心地よく感じるということだと思うので、安全かな……と。
東條 確かに、評価が確立している本にはよいと言われるだけの理由が必ずあります。もちろん新しい絵本にもよいものはありますが、近年は「子どもにとってよい」というよりも、お母さんの共感を得ようとしている絵本が増えてきている印象があります。道徳が教科化されて、道徳絵本も増えてますね。今は私たちが子どもの頃よりも、いろいろな本があふれていて選ぶのが難しい。
北尾 「名作で足りる」というのは、出版界に携わる者としては忸怩たる思いがあります。いい本を作ろうと思っている編集者もいるけれど、紙媒体が売れなくなっているから、どうしても出版社が“大きく売れるもの”を目指してしまうんです。特に、少人数の読み聞かせではなく、図書館や学校など大人数の読み聞かせでは、一発ギャグのようにウケることを求める読み手が少なくない。だから、センテンスが短い“出オチ”みたいな絵本ばかりが出版されてしまう。読み聞かせ対応の絵本は“出オチ”、先ほど東條さんが言っていた親にウケる絵本は“お涙頂戴”という傾向が顕著になってきているような気がします。
東條 学校で読み聞かせのボランティアをしているお母さんに話を聞くと「高学年に読むのはちょっと苦手」という人が多い。素直に反応する低学年と違って、高学年は反応がなく、不安だと言うんです。だからウケる本を選ぶ。でも、40人いたら40人満足できる本なんてあり得ないと思います。