絵本座談会【前編】

「読み聞かせ」は頭のいい子を育てる? 絵本をめぐる“親の憂鬱”を考える座談会

2019/06/03 17:00
安楽由紀子

 頭のいい子に育てるには、毎日の読み聞かせが必要――そんな情報が子育て世代に飛び交って久しい。親子で読み聞かせを楽しんでいるという人も多いようだが、一方で、「頭のいい子を育てる」という情報に縛られ、疲れてしまう人たちもいるようだ。読み聞かせをするにしても「どのように読めばいいのか」「子どもの集中力が続かない」と悩みを抱く親も少なくない様子。そんな絵本をめぐって憂鬱になってしまっている親に向けて、今回、絵本関係者の座談会を開催する。参加者は、絵本コーディネーターの東條知美さん、図書館司書の神保和子さん、絵本の編集者である北尾知子さん、そして「絵本好き」であるワーキングマザーの大内めぐみさん。皆さん、本当に読み聞かせは必要なんですか?

(左から)東條知美さん、神保和子さん、北尾知子さん、大内めぐみさん

――「読み聞かせが学力の基礎になる」という話をよく耳にし、実践している親御さんも多いと思うのですが、いつ頃から、そのような話が広まったのでしょうか。

東條知美(以下、東條) 調べたところによると、1970年代後半から子どもの言語力を伸ばすことに影響があると言われ始めたようです。

北尾知子(以下、北尾) その少し前に、絵本がたくさん出版されるようになり、機が熟したんでしょうね。

東條 そうですね。80~90年代には、読み聞かせのスタイルが着目されるようになりました。その後2000年代にかけて、愛着形成・脳の発達と読み聞かせの相互関係が謳われるようになり、教育現場での読み聞かせも定着していきました。司書の神保さんは読み聞かせについて講演していますよね。「読み聞かせ」は必ずしなければならないと思いますか。


神保和子(以下、神保) 「しなければいけない」ということはないと思っています。ただ、絵本を読んであげる行為は親子のコミュニケーションですから、子どもの情緒が落ち着きますし、読み聞かせをしてもらった子とそうでない子の語彙数の差は大きいのかなと感じます。小児人工内耳移植に取り組む外科医の著書『3000万語の格差 : 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』(ダナ・サスキンド/明石書店)によると、2歳までの間にどれだけの言葉を浴びたかが言葉の発達に大きく影響するそうです。ただ、今の忙しいお母さんに「たくさん言葉をかけてあげて」と言っても、どんな言葉をかけていいかわからないでしょうから、絵本をツールとすればいいのではないかと思っています。また、読み聞かせをたくさんした子どもは、その後、厚い本にも入っていきやすいとも言われています。

東條 神保さんの言っていることに間違いはないと思います。私も読み聞かせを肯定的に捉えている人が集まる講演会では、「“絵本の時間”が宝物となる7つの理由」として、「1:豊かな感情、安定した感情を育む」「2:自己肯定感を育む」「3:言葉の発達に役立つ」「4:さまざまな場面で活動のきっかけとなる」「5:好奇心への入り口となる」「6:多様性を知り、自分自身を知るきっかけとなる」「7:“愛”を知る」と解説しています。ただ「2歳までにどれだけ言葉を浴びたか」と言われると、「2歳以降に読み聞かせをしても手遅れなんだ」と誤解してしまう人もいる。そのフォローはしたいですよね。正しいことに窮屈さを感じたり、そのプレシャーから子育てに苦しんでいるお母さんもいるので。

大内めぐみ(以下、大内) 私は2歳違いの子どもを2人育てているのですが、以前から絵本とは接点を持っていたので、自分自身は、読み聞かせ自体にプレッシャーを感じたことはないです。ただ、うちは0歳から保育園に通わせていて、お迎え後から寝かしつけるまでは本当に大変だったので、「読み聞かせと言われても、いつ読めばいいんだろう? そんな時間はない」というお母さんの気持ちはよくわかります。私もそういうときがありました。

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