[女性誌速攻レビュー]「ar」5月号

橋本環奈の顔面になれる!? 「努力次第で何とかなる」思想を植えつける「ar」の非情さ

2019/05/02 17:00
島本有紀子
「ar」2019年5月号(主婦と生活社)

 今月の「ar」(主婦と生活社)は「その努力、必ず実ります 顔面偏差値アップ作戦」と銘打った「BEAUTY特集号」です。顔面偏差値とは、読んで字のごとく顔の良し悪しを偏差値でたとえた俗語。主にネット掲示板等で他人の容姿を無責任に採点、批評するときに使われるため、良いイメージではない単語だと思っていたのですが、「ar」は堂々と表紙に打ち出してきました。さらに、ネット上では単に顔の造作のみを採点する非情なものとして使われている「顔面偏差値」を、「ar」では努力次第でどうにかなるものとして捉えている様子です。

 同誌は2月号でも、一般的にはマイナスイメージである「匂わせ」という俗語を、「匂わせ女子=勝ち組!」とポジティブに捉えた特集を組んでいました。この感じ、「私たちって“明るい世界の住人”だけど、オタクさんっぽいネットスラングも使えちゃうよ! 意味はよくわからないけど! キャピキャピキャピ」というリア充の雰囲気がうまく出ています。読んでいるだけでリア充になれる気がする中身、早速見ていきましょう。

<トピックス>
◎「橋本環奈 隅から隅まで(ハート) 環奈顔まとめ」 
◎「その明るさが世界を救う おフェロGAL、爆誕。」
◎「だまされたくなる可愛さ 愛しのたぬきFACE」&「キャッとする!? arは全力で猫推しデス」

橋本環奈の正論は役には立たない

 表紙と巻頭特集「隅から隅まで(ハート) 環奈顔まとめ」に登場するのは、“千年に一度の美少女”こと橋本環奈です。顔面偏差値アップ作戦という特集で彼女を持って来るとは、ハードルが高すぎやしないか? と思いましたが、天然ポジティブ誌「ar」は、そんなことお構いなし。「パーツ別に自己分析して見えてきたキラキラスパークリングな女子になる秘密。今すぐマネちゃお(ハート)」と、マネしちゃえば橋本環奈になれる的な希望を、無邪気に植え付けてきます。

 そうして提示されている“橋本環奈の条件”は、「ぱっつんな前髪」「色素薄めな瞳」「すっとした鼻筋」「ピンク色チーク」「ぷるぷるなリップ」。なるほど! 前髪はカット、瞳はカラコン、チークとリップはメイクで変えられるから、どうしても変えられないのは鼻筋だけ! これで私も鼻筋以外は橋本環奈ね!! ……と思える女子がいるとは、まさか「ar」も思っていないのでしょう。内面を磨けば外見も磨かれるということを伝えたいようで、彼女のマインドを紹介するインタビューにも力を入れています。


「自分にチャンスがこないと思っている人は、チャンスを見失っちゃうんだと思う」
「何事も楽しめる人はいい方向に行く。どれだけきつくても、楽しめば結果、達成感という何事にも代えがたい幸福感というのがある」
「過程では弱音は吐かないって決めてる。『ださい』って思うんで」
「笑顔は自分も周りも幸せにしてくれるから、どんな時も忘れないように(ハート)」
「人の好き嫌いはあまりなくて、人見知りもしないです。人間好きなんだと思います」

 自己啓発本か! とツッコミたくなる正論のオンパレード。言っていることは確かに正しいんだと思います。でも、内容にまったく奥行きや温度を感じないのは筆者だけでしょうか!?

 同誌のカルチャーページには、歌手・あいみょんのインタビューも。あいみょんは、ラベルライター「テプラ」にハマっているそうで、「今はジッタリン・ジンさんのアルバムタイトル『ハッピーカムカム』という文字を打って、携帯に貼っています」とのこと。こっちをマネした方が幸せになれそう、と個人的には感じました。

ar(アール) (雑誌お取置き)1年12冊