オンナ万引きGメン日誌

資産家の万引き老人は、万札を放り投げた! 「地位の高い人ほど謝罪しない」現場のリアル

2019/04/27 17:00
澄江

ネズミ男とまさかの再会――「あんたに捕まったことあるよ」

 つい先日、生鮮食品スーパーSで、久しぶりに勤務を担当しました。すると、前半の終了間際に、薄汚れたグレーのジャンバーを着た高齢男性が、手に取ったサバ缶(128円)をズボンのポケットに入れるのを現認。声をかけて事務所に連れて行き、身分を確認させてもらうと、差し出された医療証に書かれた名前に見覚えがありました。

「旦那さん、前に、お会いしたことありましたっけ?」
「ああ、前にここで、あんたに捕まったことあるよ」

 顔をよく見てみれば、かなり痩せてはいるものの、あのネズミ男に違いありません。犯行を素直に認めて、おとなしくしている姿を見ると、前回の時とは別人のようです。

「ずいぶんお痩せになられたから、わからなかったですよ。お病気でもされたんですか?」
「ああ、あれからガンが見つかって、胃を取ったりしたんだ。悪いことはするもんじゃねえよ……」

 その後、サバの缶詰を一つ盗んでしまったばかりに基本送致されることになったネズミ男は、フィリピン人の彼女がガラ受けすることを条件に帰宅を許されました。時計を見れば、すでに午後9時を回っており、声をかけてから6時間以上が経過しています。たった128円の缶詰を一つ盗んだ男のために、ここまで時間をかけなければならない現状に、疑問を抱いているのは私だけではないでしょう。


 帰り際、警察署のロビーで調書の出来上がりを待っていた私に気付いたネズミ男が、警察官の制止を無視して近づいてきました。軽く身構えると、その雰囲気を察したらしいネズミ男が、ひどく申し訳なさそうな顔で言います。

「こんなに遅くまで付き合わせて申し訳ない。もうやらないから勘弁してな」

 この人は、もうやらないだろう。ガラ受けにきたフィリピン人の彼女のお尻が、異様なほど大きかったためなのか、以前と比べて明らかに小さくなったように見えるネズミ男の背中……。それを少し晴れやかな気分で見送った私は、駅前の牛丼屋で遅めの夕食を取ってから帰宅しました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

最終更新:2019/04/27 17:00
万引き老人 「貧困」と「孤独」が支配する絶望老後/伊東ゆう(著者)
万引きしといて「わかんないよ」はお手上げですな