オンナ万引きGメン日誌

資産家の万引き老人は、万札を放り投げた! 「地位の高い人ほど謝罪しない」現場のリアル

2019/04/27 17:00
澄江

「呼べよ、呼べばいいじゃないか!」ネズミ男が暴走

(外に出たら声をかけなきゃ……)

 何度経験しても必ず感じる緊張感を胸に、ネズミ男の後を追った私は、彼が自転車の脇にカートをつけたところで声をかけました。

「あのお客様、お刺身などのお支払、お忘れじゃないですか?」
「ああん? あんた、なに言ってんだ? 全部払ったよ! これ、見てみろ」

 怯むことなく堂々と否認してみせたネズミ男は、鬼の首を取ったような顔つきでカゴに被せた段ボールを除けると、ビニール袋にくるまれた商品群を私に見せつけました。

「これ、全部払ってないですよね? 事務所に同行いただけないなら、今すぐ警察を呼びますけど、どうされます?」
「なんだとお? 呼べよ、呼べばいいじゃないか! おれが払っていたら、あんた、どう責任取ってくれるんだ? それを教えてくれ」


 大声で喚き散らすネズミ男に、周囲の視線が集まります。なるべく早く通報したいところですが、逃げられぬよう袖口を掴んでいるため、うまく通報できません。押し問答を繰り返しながら右往左往していると、たまたま通りかかった警察官が間に入ってくれました。どうやら、この店の近くで交通違反の取り締まりをしていたようで、その帰りに見かけてくれたようです。臨場した警察官による聴取で77歳だったことが判明したネズミ男は、不動産管理業で、この店の近くにあるビルの最上階にフィリピン人の恋人と住んでいると、どこか自慢気に話していました。所持品検査の結果、20万円以上の現金が出てきたので、お金に困っての犯行ではなさそうです。

 警察を呼ばれても動じずに、否認を続けたネズミ男でしたが、防犯カメラの映像を検証されて証拠があがると一転して犯行を認めます。

「映っているなら仕方がない。余計に金を払うから勘弁してくれ」

 ブランド物の派手な財布から数万円の紙幣を取り出したネズミ男は、それをテーブルに放り投げるようにして居直りました。

「お金あるのに、どうして払わなかったんですか?」
「そんなこと、わかんないよ。なんとなく、やってみたかったんだ」


 ビニールやダンボールを使ったのは精算したと見せかけるため、犯行をごまかす目的で長ネギを買ったのだと、苦笑いしながらも少し偉そうに話すネズミ男の姿を見て、ひどくイラついたことを覚えています。

万引き老人 「貧困」と「孤独」が支配する絶望老後/伊東ゆう(著者)