仁科友里の「女のための有名人深読み週報」

「地元の友達に負けたくない」横澤夏子が憧れる、“キラキラした東京生活”の大いなる盲点

2019/02/28 21:00
仁科友里

横澤の価値観では「キラキラした区」に住むのは勝ち組だが……

 横澤は『文藝芸人』(文藝春秋、17年)で、自らの原動力について「地元(新潟県糸魚川)のOLの友達に負けたくない」と書いていた。もちろん、芸人だから、あえて露悪的に書いている部分はあるだろうが、見ず知らずのインスタグラムの女性の投稿をあれこれ言う芸風から考えると、他人の視線が気になるタイプ、もっと言うと自分が一番だと言われたい性質であると見ることもできるだろう。

 「地元のみんな、見て。私は東京のキラキラした区に家を買ったの!」とアピールしたい気持ちもあるのかもしれないが、横澤の地元の人は、地元の価値観で生きているので、「芸能人として一発当てて、東京のおしゃれエリアに家を買う」ことがうらやましいと思ってくれるとは限らないのだ。実際、横澤は「文藝芸人」で「うちの地元じゃ、墓守をする人=家を継ぐ人が一番偉いという考えなのです。だから、給料がいいことなんて、まったく自慢にならなかったのです」と明かし、そのことを知って、「泣きながら家に帰った」とも書いていた。横澤の故郷だけではなく、日本の至るところに、市役所など安定したところに就職して、二世帯住宅を建て、親に孫の顔を見せることが幸せだと信じる人はいる。高年収の企業に就職して、独身で海外赴任してしまうよりも、低収入でも、親と暮らす、子だくさんの元ヤンの方が褒められる世界は、確かに存在するのだ。

 また、上沼恵美子が『怪傑えみちゃんねる』(関西テレビ)で、かつて歌手デビューした時、セールスが一番悪いのが地元・淡路島だったと話していた。「同じ地元民なのに……」という理由で妬みが生まれ、応援する気持ちになれないということらしい。その代わり、ブレークすると「私が育てた」「えみちゃんとは親しかった」と言いだすとも付け加えていた。横澤が思ったほど、地元でちやほやされないのは、こういう人間心理も働いているのかもしれない。

 しかし、本当の問題は、横澤がキラキラした区に定住してしまった場合である。横澤の価値観で言うのなら、キラキラした区に住むのは、勝者の証しだろう。ただし、そういうキラキラした区には、保守的もしくは排他的な人も多数いるので、そこに入れば、横澤は単なる新参者であり、代々そこに住む人と比べると“下”なのである。芸人として売れる、つまり勝者になった結果、一番下に行ってコンプレックスを刺激されるという矛盾を味わう可能性もあるわけだ。

 横澤の言うキラキラ願望が、どれほど本気のものかわからないが、地元の人に尊敬されたいなら、両親にお城のような豪邸をプレゼントし、孫の顔を見せるのが効果的だろう。横澤の今の活躍ぶりなら、故郷に豪邸くらいたやすいはず。「横澤御殿」と呼ばれる豪邸が立った時が、かつての同級生への勝利宣言になるかもしれない。


仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。
ブログ「もさ子の女たるもの

最終更新:2019/02/28 21:00