サイゾーウーマンカルチャーインタビューセレブ家庭で虐待は起こらない? カルチャー インタビュー セレブ家庭で虐待は起こらない? 南青山児相建設計画、元児童福祉司が語る「反対派」の盲点 2019/02/09 17:00 サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman) インタビュー社会 Photo by mrhayata from Flickr 昨年末、東京都港区が南青山に、児童相談所(以下、児相)を含む複合施設「港区子ども家庭総合支援センター(仮称)」を建設予定であることに対し、一部の住民が猛反発する住民説明会の様子が、連日テレビで取り上げられ話題となった。 反対派から挙がった声は、主に「青山のブランドイメージを損なう」というもので、そのほかには「児童相談所の子どもが、南青山に住む幸せな家族を見たとき、自分の家族とのギャップに苦しむのではないか」など、保護される子どもの家庭と南青山という一等地に住む家庭との格差を懸念するものもあった。世間では「選民思想丸出し」「あまりにも心が狭い」「逆に南青山の価値を下げている」といった批判が飛び交うことになったが、こうした反対派の背景には、「児童虐待は貧困家庭で起こるもの」「セレブ家庭と児童虐待は無関係」といった意識があるのではないだろうか。 事実、児童虐待と貧困は密接につながっていると感じさせるニュースは後を絶たないが、本当に“裕福な家庭で児童虐待は起こらない”と言い切れるのか。今回、江戸川大学こどもコミュニケーション学科特任教授で、児相にて児童心理司、児童福祉司を務めた経歴も持つ金井雅子先生にこの疑問についてお聞きするとともに、南青山児相建設問題で浮き彫りになった「世間の児相に対する勘違い」や、虐待件数増加の背景などについても語っていただいた。 児相を“知らない”ことが問題 ――まず、今回の南青山児相建設問題をどのように受け止めましたか。 金井雅子先生(以下、金井) 反対住民の「貧困家庭の子どもがセレブ家庭を見るのはかわいそう」といった声を耳にしたとき、やはり児相について“知らない”ことが住民の不安を大きくしているのだろうと感じました。一時保護している子どもは、その子の身の安全を図るために、保護されている場所を秘匿するのが今の流れです。そのため、むやみに出歩くなど人目に触れるようなことはしないんです。そのようなことが周知されていなかったため、反対派から見当違いな発言が相次いだのでしょう。 ――なぜ正しい情報が伝わっていなかったのでしょうか? 金井 南青山のある港区では、子ども家庭支援センターがそれほど機能していなかったのかもしれませんね。日ごろから地域と深く関わっている区では、住民の理解度も高く、「ぜひ作ってほしい」との声も聞かれるくらいですから、恐らくそのような下地がなかったのだと思います。また、本来は説明会で丁寧なやりとりを行えば、住民の不安の多くを取り除けるはずなのですが、今回はそれが不十分だったのではないでしょうか。さらに、都内の一等地である「南青山」という地域性から、マスコミだけでなく世間もこの問題に注目し、問題が大きくなっていったのではないかと思います。 ――これまでも似たような問題はあったのでしょうか。 金井 そうなんです。現在、江東区枝川にある江東児相は、墨田区にあった児相が移転したものなのですが、当初、墨田区内での移転が計画されていました。しかし、建設候補地近隣の商店街などから猛反発があったため、今の場所へ落ち着いたという経緯があります。児相は、子どもたちにとって必要なものとわかってはいるものの、「自分の住む地域には作ってほしくない」と思われてしまう建物なのかな、という気がしますね。とはいえ、今回南青山で話題になったことから、世間の児相への関心も高まったようなので、ある意味では良かったと捉えています。 ――2016年に児童福祉法が改正され、東京23区でも児相を設置できるようになりました。その背景には、やはり虐待対応件数が年々増加していることも関係しているのでしょうか。 金井 統計で虐待対応件数が年々増加の一途を辿っているからといって、単に“虐待する親が増えている”というわけではないんですよ。ここ30年ほどで虐待がクローズアップされるようになって、いわゆる「泣き声通告」が増え、以前は見過ごされていた虐待が顕在化したことで統計上の数字が上がるという、いわば数字マジックの側面もあるのです。また、これまでは経過を見ていたケースでも、不安要素が少しでもあれば一時保護や施設入所につなぐなど、児相や子ども家庭支援センター、警察などの対応も変わってきています。 なお、それは虐待の種類にもいえることです。虐待は、身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト、性的虐待の4つに分けられ、以前は身体的虐待とネグレクトが圧倒的に多かったのですが、2003年の虐待防止法の改正で「DVの目撃」が心理的虐待にカウントされるようになってからは、心理的虐待が一気に増えました。 ――統計上の数字が絶対ではないんですね。 金井 虐待は、例えば「身体的虐待だけ」「ネグレクトだけ」といった形ではなく、「身体的虐待とネグレクトが同時に」というように、複合して起こることが多いのですが、統計上は「主に身体的虐待」もしくは「主にネグレクト」という、どちらかの形でカウントされます。また、例えば暴行による虐待でも、父親からなら「主に身体的虐待」となるのに対し、母親の恋人からであれば、母親が恋人の暴力を見過ごしたとして「主にネグレクト」と分類されるんですよ。「泣き声通告」にしても、ご近所トラブルによる嫌がらせや、親権争いで有利になりたい父親が妻を貶めるために、“嘘の通告”をすることもあるので、数字ではなく、内情にきちんと目を向けることが大切です。 次のページ 虐待は「貧困か裕福か」の二元論では語れない 1234次のページ Amazon 子どもの虐待防止・法的実務マニュアル【第6版】 関連記事 なぜ「虐待する親」「パートナーの虐待を止めない親」が生まれるのか、臨床心理士が心理状態を分析虐待した保護者、虐待された子のその後は――? 児童相談所の「措置機能」を考える悲しいことに結愛ちゃんが書いた「ゆるして」は珍しくない……子どもへの暴力を認めている日本の現状児童相談所の権限強化や警察との全件共有は、本当に救える命を増やすのだろうか?「加害者の半数は実母」「幼児より新生児の被害が圧倒的に多い」――児童虐待の事実をどのぐらい知っていますか?