ミスター慶應&東大候補者の性犯罪報道、「熱狂する世間」の欲望を精神科医が読む
次に、ミスター候補者の逮捕・起訴報道を“見る側”の意識を、片田氏はどう捉えているのだろうか。「勝ち組だったのに、人生終了」「難関大のミスターコンテストにろくな奴いない」などの批判が飛び交い、ネットユーザーの中には、さらなる余罪を探し出そうとする者もいる。
「やはり、大衆の“羨望”を感じますね。羨望とは、“他人の幸福が我慢できない怒り”にほかなりません。『高学歴』『容姿』『裕福』の三要素が揃った人物に、人は怒りを抱くものなのです。そんな羨望の対象である人物の失墜を目の当たりにして、大衆はものすごいカタルシスを覚えます。元衆議院議員・宮崎謙介さんが、妻の出産直後に不倫スキャンダルを起こした際も世間は盛り上がっていましたが、彼もまた高学歴かつルックスも良く、お金持ちでした」
「他人の不幸は蜜の味」とはよく言うが、他人が高スペックであればあるほど、その蜜は甘くなるものなのかもしれない。
そんな中、思い出されるのが、2016年に起こった東大生サークルによる集団わいせつ事件だ。加害者の男性5人は、女子大生に無理やり酒を飲ませ、男性の1人が住むマンションの一室で強制わいせつ行為に及んだ。その際、世間では加害者に対する怒りの声が上がった半面、「なぜ女性は酒を飲んで男性宅についていったのか」など、被害者女性の軽率さを指摘する声も少なくなかった。中には、「前途ある東大生の未来を潰した」と女性を責める者もいた。
しかし、今回は被害者女性を非難する声はほとんどなく、稲井被告と渡辺容疑者に世間の視線は集中。もちろん、事件の背景が異なるだけに一概には言えないが、この世間の反応の違いを、片田氏はどう見るのだろう。
「稲井被告と渡辺容疑者が『イケメン』というのは大きいと思います。恵まれた容姿の持ち主に対する、大衆の羨望はかなり強いのです。それから、ネットテレビに出演するなど、目立つ存在であったことへの羨望もあったと思います。そのため今回、世間は加害者側を叩くことに夢中で、被害者女性のことは眼中に入っていないのでしょう。スキャンダルを起こした芸能人が叩かれる構図と同じとも言えますね」
加えて片田氏は、先の東大生の集団わいせつ事件をめぐり、被害者女性を非難し、加害者の東大生を擁護した風潮に対して、「こういった高学歴をチヤホヤする空気自体が、エリートの特権意識を強め、勘違いさせてしまう場合もある」と警鐘を鳴らす。
難関大学生の性犯罪はいつもセンセーショナルに伝えられ、その背景や要因を探る報道が飛び交うものだが、世論が新たな犯罪を生む風潮をつくったり、被害を不透明にしたりすることは避けなければいけない。そうあらためて実感させられる。