アカチャンホンポ「お母さんを応援」パッケージ変更――「クレーマー批判」はなぜ起こる?
赤ちゃん本舗は、署名活動の主催側に「現在の商品在庫がなくなり次第、順次、新しいパッケージに切り替えていく」と伝えたそうだが、ネットでは「パッケージを変えたところで何かが変わるとは思えない」といった指摘も少なくない。治部氏は、「時代が変わってきたからパッケージが変更になったとも捉えられる」という。
「パッケージが変わったから夫婦間の育児分担に変化が生まれる、夫婦間の育児分担に変化が生まれたからパッケージが変わる……これは、どっちが原因でどっちが結果かははっきり言えないかなと思います。『何かが変わるとは思えない』という意見もあるそうですが、『署名活動が起こってパッケージが変わる時代になった』こと自体が人の心を動かすこともあります。それが、男性の育児参加への心理的ハードルを下げることにもつながのではないかと感じますね」
過去にアメリカのジェンダー規範について調べていたという治部氏。1948年にギャラップ社がアメリカで行った世論調査では、「女性がスラックス(長ズボン)をはいて人前に出る(例えば買い物に行く)ことに賛成か」といった、「今となってはかなりナンセンスな質問」がされていたという。その回答を見ると「賛成」する人は約30%しかおらず、「反対」「どちらでもない」人は合わせて約70%だったそうだ。
「そんなアメリカのジェンダー意識に変化が生じたのは、女性解放運動が活発化した1960~70年代にかけて。ギャラップ社の世論調査によると『夫に充分な収入がある場合、既婚女性が働くことに賛成ですか?』という問いに対し、60~70年代にかけて『賛成』と回答する人が増えた。つまり女性解放運動の盛り上がりが、人の行動や意識も変えていった。そして、人の意識が変わったから、社会が変わっていくんですよね」
日本においてもこうした大きな流れは起こっているという。現在子育てをしている世代は、一世代前に比べて、育休を取りやすくなり、職場復帰できる体制が整いつつある。母親が仕事をしていることで、父親も育児に参加するようになり、以前は珍しい存在として注目を浴びた「イクメン」という言葉も、すでに死語になっている。
「母親の働き方の変化と、父親が育児参加するようになったことはリンクしています。それに伴ってベビーカーも、かつてはお母さんが押すこと前提のデザインでしたが、海外のベビーカーが入ってくるようになって、持ち手が高いもの、黒やシルバーの色のものなど、男性が使いやすいデザインが増えました。今回のパッケージ変更も、こうした大きな変化の中の1つとして、つながっていると思っています」
今、日本は、育児の環境や意識が大きく変わっていく、その真っ只中にいるのかもしれない。そんな中で、「キャッチコピーやパッケージを変えただけでは、どうにもならない」と局所的な見方をするのではなく、もっと広い視野を持って、変化を捉えるべきなのではないだろうか。