兵庫医科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 任智美医師インタビュー

“食べ物の味がしない”20〜30代女性が増加中! 「味覚障害」の危険性を専門医が警鐘

2018/07/24 15:00

ダイエットやストレスなど、さまざまな理由で発症する味覚障害

 発症の原因の多くは、舌の表面にある「味蕾(みらい)」という器官に関係している、と任先生。

「私たちは、舌にある味蕾を介して大脳の味覚野に味物質を伝えることで、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味という5つの味を認識します。しかし、何らかの原因によって、味が伝わるプロセスが妨げられると、味覚が異常を来してしまうのです」

 味覚障害発症の原因はさまざま。そのひとつとして挙げられるのが、血液中の亜鉛不足だ。

「『亜鉛』は、味蕾の中にある味細胞が、正常に働くために必要な栄養素です。偏った食生活を送り、血液中の亜鉛が不足すると、味を感じることができなくなります。亜鉛はカキなどの魚介類に多く含まれているのですが、食生活の欧米化によって肉を食べる量が増えたり、魚介類を食べる機会が減ったことも原因のひとつとして考えられています」

 また、30〜40代の女性に多いのが、ダイエットによって引き起こされる味覚障害。肉類に含まれる動物性タンパク質には、亜鉛の吸収をサポートする働きがあるにもかかわらず、ダイエットと称して肉を食べなくなると、結果的に亜鉛が不足する原因になるとのこと。また加工食品ばかりを摂るなどの偏った食生活も、亜鉛を含めた栄養バランスを崩す原因となり、味覚障害を引き起こすこともあるという。


「そのほかにも、服用している薬の副作用で亜鉛が体外に出やすくなったり、加齢によって消化吸収の機能が衰えて亜鉛が体に吸収されにくくなるなど、亜鉛が不足する理由もさまざまです。鉄やビタミン不足による貧血や胃腸炎などの消化器疾患の症状のひとつとして味覚障害が表れることもあるので注意が必要です」

 そして、正常な味が感じられない場合は、ストレスやうつ病などの心因性の味覚障害である可能性も。一口に味覚障害といっても、原因の特定が難しい病なのだ。

■まずは亜鉛の摂取から! 味覚障害の治療法

 味覚の低下や変化は、徐々に進行していくケースが多く、自覚しにくいのも特徴だ。そのため、任先生のもとを訪れる患者の中には、家族に“料理の味の変化”を指摘されて発覚するケースが多々あるという。そこで「ひょっとして、自分も味覚障害かも?」と感じている人は、まず以下の項目を確認してみよう。

1:水1リットルに対し小さじ1/2の割合で食塩を入れた塩水10ccを口に含んだときに、塩味をまったく感じない
2:水1リットルに対し小さじ1杯の割合でグラニュー糖を入れた砂糖水10ccを口に含んだときに、甘味をまったく感じない
3:本来の味とは違う味がしてしまう(甘味→苦味など)
4:何も食べていないのに口の中が苦い
5:塩味だけがきつく感じる


「この項目にどれかひとつでも当てはまったら、味覚障害の可能性があります。まずは亜鉛を摂ることを心がけ、牡蠣、うなぎ、牛肉、ごま、大豆やアーモンドなどの食品を積極的に食べたり、サプリメントで亜鉛を補うことをお勧めします」

 ただし、サプリメントの場合は、摂りすぎには注意が必要。亜鉛を過剰に摂ると、貧血や免疫力の低下などの“過剰症”に陥ることもあるので、用量を守って飲むように心がけよう。

「原因が亜鉛不足の場合は、若い人であれば食生活を変えるだけでも味覚機能が改善されます。しかし、1カ月ほど意識的に亜鉛を摂っていても味覚に異常を感じるようであれば、ほかの原因が考えられます。その際は、味覚外来を掲げている耳鼻咽喉科や歯科などの医療機関を受診し、適切な検査や治療を受けてください」

 味覚障害は生活習慣病の原因となるなど、さまざまなリスクも抱えているが、何より食事をおいしくないと感じるのはツラいこと。普段、あまり“味”を意識していない人も、健康を維持するために自分の味覚を見直してみるといいかもしれない。
(真島加代/清談社)

任智美(にん・ともみ)
兵庫医科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科医師。現在の日本では数少ない味覚外来を担当し、年間約200人の味覚障害患者を診察。味覚障害に関する論文も多数発表している。

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最終更新:2018/07/24 15:00
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