「ゲンコラ」で話題『はだしのゲン』、発売当初は返本の山もなぜか後押しされたワケ
故・中沢啓治さんのマンガ『はだしのゲン』のワンシーンを用いた「ゲンコラ」と呼ばれるコラージュが流行するなかで、出版元の汐文社が「弊社書籍内のイラストの転載について」という声明を公開している。
現在、Twitterを中心に流行している「ゲンコラ」は、作中のシーンを用いて、セリフを改変し、自分の趣味を人に伝えようとしてもうまくいかないことを4コマで表現する内容。Twitterでは「♯ゲンコラ」などのハッシュタグとともに多くの画像がアップされているが、同時に「著作権侵害ではないか」と非難する声もあった。
6月4日、汐文社が公式サイト上に「弊社書籍内のイラストの転載について」として掲載した文書では、著作物の二次使用について許諾の要・不要などの詳細が記されたページがリンクされ「弊社は、弊社書籍内のイラストやマンガの転載は基本的にお断りしています」「作品の著作権者が不利益を被るような内容であると弊社が判断した場合には、著作権者にお知らせしています」とくぎを刺している。
やはり、ゲンコラの著作権侵害を問題視した読者などからの問い合わせを受けて、対策に動いたのか。汐文社に問い合わせたところ「公式サイトにアップした声明がすべてです」という。
明言は避けていたが、ゲンコラがブームになったことで対応を迫られたのではないかと思われる。
もともとゲンコラは、数年前からすでにネット上に登場。Twitterだけではなく、同人誌でもパロディとしておおいに用いられてきた。
考えてみれば、これは特異な現象だ。いうまでもなく『はだしのゲン』は、作者である中沢さんの被爆体験をもとに描いた作品。子どもにもわかるように、これでもかと原爆の悲惨さを伝えようとする描写が続く。読んだ後、夜眠れなくなったようなトラウマ体験を持つ人も多いだろう。
原爆や戦争への怒りと憎しみが叩きつけられた「平和学習マンガ」あるいは、反戦思想を押し出した「左翼マンガ」というのが、『はだしのゲン』への一般的な評価といえる。そんな政治色が濃い作品にもかかわらず、恐れられながらも世代を超えて読み継がれているロングセラーになっている。
理由はさまざまある。それはギャグにも長けた中沢の読者サービスともいえる表現。単に「戦争はダメだ」「核兵器をなくそう」ではなく、マンガとして存分に楽しませてくれた上で、本来の作者が伝えたかったテーマが浮かび上がってくるのだ。ゲンコラの著作権をめぐる是非はともかく「多くの人に愛されるマンガ」であることは、疑いない。
だが、そんな作品の評価は一朝一夕でできあがったものではない。
「単行本になった当初は、まったく売れなかったんです……」
そんな過去を語るのは、昨年まで広島女学院大学特任准教授を務めた西河内靖泰さん。