“中学受験”に見る親と子の姿

「受験校を勝手に決めた」母と「逆らわない」娘――不合格連発の中学受験で起きた“非常事態”

2018/04/22 17:00

 律子さんは驚いたものの、やっとの思いで、その子に「あ、でも、あなたは(裸足になるけど、どうするの)?」と返すと、「私は体育館履きがあるんで、平気です!」と言い、美香ちゃんに向かって、こう告げて、鮮やかに去っていったそうだ。

「私も去年の今日、5日目でようやくここに入ったの」

 美香ちゃんはその後、試験を受け、夜にはもう涙も見せず、律子さんに、「私、ああいう人になりたい。私、ここ入れるといいな……」と語っていたという。

受験生の母として絶対的に足りなかったもの

 律子さんは、その夜、再び私に連絡をくれ、こう話してくれた。

「りんこさん、私、ようやくわかった気がします。美香が持っていて、私に絶対的に足りなかったものが。私には受験って勝たなくちゃダメだっていう思いがあって、はっきり言えば偏差値が高くないと意味がないって思っていました。そのためには人を蹴落としてでも、上に行かないといけないって。直接、美香に言うわけではないけれども、全身でそう表現していたような気がします」


 美香ちゃんはとても優しい子で、これまで律子さんに逆らうことはただの一度もなかったというが、「もしかして、心のどこかで『これは違う』と思っていて、私が勝手に決めた受験校には、思い入れが持てなかったかもしれません」と、律子さんは振り返っていた。しかし、上履きを貸してくれた在校生との出会いにより、美香ちゃん自身がようやく「ここに入りたい」と思えたのかもしれない、と。

「昨日まで、神様っていないとまで思った受験でしたが、りんこさん、訂正します。神様っているんですね。あの女の子は、神様が私たち親子につかわせてくださった天使のような気がしてきました。私、今、気が付けて良かったです……」

 人は絶望の淵に立った時にこそ光を見ると、どこかで聞いたことがあるが、律子さんもそういう心境だったのかもしれない。補足しておこう。美香ちゃんは今、その“天使先輩”と同じ部活で活躍中である。
(鳥居りんこ)

最終更新:2019/08/14 17:44
中学受験をしようかなと思ったら読むマンガ (日経BPムック 日経DUALの本)
自分を責める母を見るのも、娘にとってはつらいよね