仁科友里の「女のための有名人深読み週報」

指原莉乃、AKBステージ落下事故への「不注意」発言に見る“男になった女権力者”の顔

2018/04/05 21:00
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指原の自己プロデュース力はどこへ向かう……

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今回の有名人>
「本人たちは絶対に自分の不注意だってわかってるから。。なんでも運営運営っていうのは違うんですよねえ。。」HKT48・指原莉乃
(公式Twitter、4月2日)

 昨年の『今夜解禁!ザ・因縁』(TBS系)で、タレント・ダレノガレ明美が、「野球関連の仕事を、稲村亜美に持っていかれた」と訴えていた。ダレノガレは元ソフトボール部で“野球”を芸能活動のウリとしていたが、野球選手と事実無根の熱愛記事が出たことで、「野球選手目当てのオンナ」とみなされ、仕事が激減したそうだ。代わりにグラビアアイドルの稲村亜美に仕事が流れたため、ダレノガレは稲村を恨んでいるという。

 はっきり言って、ダレノガレの“言いがかり”だったが、ここでわかるのは「仕事を取るのは、戦い」ということである。芸能界のような人気商売は、実績がある人にオファーが集中する仕組みになっていることから考えると、「他人に1つも仕事をやりたくない」というのが芸能人の本音であり、そういった風潮が、仕事をくれる人、権力を持つ人の言いなりになる構造につながっていく。

 その稲村が、先月、日本リトルシニア中学硬式野球協会関東連盟の始球式に参加した。堂々たるピッチングを披露した後に、事件が起きた。稲村を取り囲んでいた中学生たちが、稲村に突進。稲村は人の渦に巻き込まれてたちまち見えなくなった。こんな経験をしても、稲村は「わたしは全く問題なく大丈夫ですよー」とツイートし、マスコミは“神対応”とほめそやした。


 “神対応”するに決まっているではないか。なぜなら、ここで文句を言うことは、連盟に盾突くことになり、仕事を失う可能性があるからだ。常識的に考えて、1,000人ともいわれる男子中学生が、自分に向かってきたら、生命の危険を感じるほどの恐怖だろう。あんなにもみくちゃにされて、痴漢行為がなかったとは考えにくい。けれど、それを口にすることは、連盟や指導者の監督不行き届きを指摘することにもなるから、稲村の立場を想像すると、言えるわけがない。

 この事件はワイドショーなどでも取り上げられたが、ひどいなと思ったのが『5時に夢中!』(TOKYO MX)の女医タレント・おおたわ史絵である。おおたわは「中学生はたしかに性欲のかたまりかもしれないけど、肝心なポイントは触らないんじゃないかな」とコメントした。

 『5時に夢中!』だから、あまり硬いことを言わず、穏便に済まそうと思った可能性はあるが、このコメントの問題は男子中学生によるセクハラだけでなく、パワハラ(仕事をもらっている立場だから、本当のことは言いにくい)も絡んでいるという視点がまるでないことだ(そもそも、肝心な部分を触らなければいいという問題ではない)。

 ちなみにその昔、高畑裕太が強姦致傷(不起訴)を起こした時に、同じく女医の西川史子が、被害女性に共感を持っているとは思えない発言をしていたが、彼女たちに共通するのは「頭を下げなくて済む商売の人特有の想像力のなさ」である(患者が医者に頭を下げることはあっても、医者が患者に頭をさげることは稀なのではないか)。患者にとって、医者は一種の権力者だが、西川もおおたわも、自分が弱者になったらという想像力がまるでないのである。

 医者は世間知らずの代名詞だが、医学部と病院という閉鎖的な権力空間で育ったので、仕方ないのかもしれない。真に怖いのは「怖さを知っているはずなのに、知らんふりする人」ではないだろうか。


逆転力 ~ピンチを待て~ (講談社 MOOK)