斎藤工『MASKMEN』で考える、山田孝之らイケメン俳優が抱える“痛さ”の使い方
斎藤工は現在、2本のドラマに出演している。1本はテレビ朝日系で木曜午後9時から放送されている『BG~身辺警護人~』。
本作は木村拓哉が演じるボディーガード・島崎章が主人公のドラマ。毎回、重要人物を警護する姿が描かれる1話完結の職業ドラマだ。斎藤が演じるのは、元自衛隊員で突出した身体能力を持つボディガードの高梨雅也。第3話では、島崎章と対立しながらもコンビを組み、芸能人社長の身辺警護を担当した。
木村と斎藤のコンビは新旧イケメン俳優の夢の共演という感じで、見応え抜群だ。木村演じる島崎への対抗意識から、突っかかっては空回りする高梨を演じる斎藤の姿には、かわいげと色気がにじみ出ている。
もう1本は金曜の深夜に放送されている『MASKMEN』。テレビ東京が得意とするドキュメンタリードラマで、斎藤が野性爆弾・くっきーのプロデュースのもと、覆面芸人の「人印(ピットイン)」としてデビューするという異色作だ。
マスクで自分の顔を隠して、宇宙人のようなコスプレをした芸人としてデビューするシチュエーションは面白い。また、顔ではなく才能で勝負する芸人に対し、斎藤が嫉妬とあこがれを抱いているという構図の設定は、いいところを突いている。
斎藤が主演級の俳優として人気を確立したのは、上戸彩が演じる人妻と不倫関係になる教師を演じたドラマ『昼顔~平日午後3時の女たち~』(フジテレビ系)だ。しかし、それ以降、セクシーさが売りの“壁ドン俳優”として消費されてしまうことに危機感があると、斎藤は事あるごとに話している。
イケメン俳優がハマる落とし穴
イケメン俳優が人気を確立し30代が近づくと、わざと変な役を演じたり、ミュージシャン、カメラマン、小説家、映画監督などといった他ジャンルに進出することが多い。
斎藤も映画監督としての顔を持ち、高橋一生が主演を務めた初の長編映画『blank13』(公開中) で各方面から高い評価を得ている。これらの活動は、本人たちにとっては純粋な表現欲求かもしれないが、意地悪な見方をすると「俺はただのイケメンじゃない」という血の叫びに見える。
もちろん、全てのイケメン俳優が脱イケメンのためにクリエイターを目指しているとまでは言わないが、外から見ると遅れてきた反抗期のようで、迷走しているなぁと思ってしまう。
代表例は、映画『シュアリー・サムデイ』で監督を務めた小栗旬だろう。しかし、今の彼は気持ちの整理がついたのか、世の中が求めるイケメン俳優としての役割を誠実に果たしている。
逆に山田孝之は髭を生やして強面になり、ほとんど別人のようになってしまった。それだけならイケメン俳優から大人の“性格俳優”への脱皮なのだが、彼が本人役で出演する『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)を見ていると、そういう安易な物語に回収されること自体を必死で避けようとしているようで痛々しかった。しかし今や、その痛々しさ自体が山田特有の魅力となり、目が離せない。
対して、斎藤の本作での振る舞いは、山田ほど痛々しいものにはなっていない。