レイプ被害に遭ったら必要なのに、「緊急避妊薬」の市販化が見送られた理由
――約90%の確率ということは、服用しても妊娠を回避できない場合があるということですか?
北村 例えば、服用前にすでに受精してしまっていた場合は、妊娠する可能性が高まります。着床するのを阻止する役割がノルレボ錠にどの程度あるのかについては、いろいろな議論があり、時期によっては妊娠を阻止できない場合もあるわけです。
また、ノルレボ錠は排卵を抑制したり、遅らせることで妊娠を回避しますが、一点だけ気をつけなければならないことがあります。排卵を遅らせたがために、ノルレボ錠服用後のセックスで妊娠をする危険性が高まります。先ほども述べましたが、卵子の生存期間は24時間で、精子は3~5日です。ということは、時期によっては緊急避妊が必要なかった人でも、排卵を遅らせたがために、その後のセックスによって受精してしまうんです。我々は、そこを見極めないといけません。
――ノルレボ錠はただ1錠飲んで終わり、というわけではないのですか?
北村 僕はノルレボ錠と一緒に低用量ピルを処方し、翌日から飲んでもらいます。これは「クイックスタート」という飲み方です。低用量ピルは、月経初日から飲むのが一般的ですが、この場合は7daysルールといって「1週間は避妊効果を期待しないでね」と伝えてから飲んでもらうわけです。そして、次の月経がくると妊娠が完全に阻止されたことがわかります。とはいえ、妊娠したか否かを早く知りたいと思うのは当然なので、ピルの1シート目(初めてのピル)は2週間くらいでやめさせます。すると、妊娠していない場合は出血(月経)が起こります。それからはピルの服用ルールに従って、7日間の休薬あるいは偽薬を服用してから、次のシートを続けてもらうことになります。いずれにせよ、ノルレボ錠服用3週間後に来院してもらって、次の確実な避妊法へとスイッチしていくわけです。このような指針をもとに、現在医療の現場では緊急避妊薬を処方しています。
――低用量ピルは、飲み始めに不正出血や吐き気といった副作用が起こることがあります。ノルレボ錠は一度の服用で避妊ができるということですが、その分、副作用も大きいのですか?
北村 副作用というと大げさなので、「マイナートラブル」と呼びます。ノルレボ錠が登場するまでは「ヤツペ法」という中用量ピルを使っていた時代がありますが、この場合は吐き気や嘔吐などの症状がありました。しかし、ノルレボ錠に関しては、僕たちの長い経験の中で、吐き気などのマイナートラブルはほとんどありません。