日本家族計画協会理事長・北村邦夫先生インタビュー(前編)

レイプ被害に遭ったら必要なのに、「緊急避妊薬」の市販化が見送られた理由

2017/08/22 15:00
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日本家族計画協会理事長・北村邦夫先生

 7月26日、厚生労働省のある会議で、ドラッグストアでカウンター越しに売られる薬(スイッチOTC薬)の候補に挙がっていた、ある薬の市販化が「時期尚早」として見送られ、ネットでは産婦人科医を中心に話題となった。それは、緊急避妊薬レボノルゲストレル錠(商品名ノルレボ錠)。セックスから72時間以内に服用すれば、妊娠を回避できる薬だ。ノルレボ錠の効果や副作用、スイッチOTC化についての意見を、日本家族計画協会理事長・北村邦夫先生に聞いた。

■排卵を1週間ほど遅らせて妊娠を回避する

――今回市販化が見送られたノルレボ錠は、どのような仕組みで妊娠を回避できるのでしょうか?

北村邦夫先生(以下、北村) ノルレボ錠は、レボノルゲストレルというプロゲステロン(女性ホルモン)製剤です。妊娠は受精した卵が子宮内膜に着床することによって成立し、排卵日と排卵日前の5日間、計6日間の間に起こります。卵子の生存期間は8~24時間といわれていますので、排卵後24時間たってからのセックスでは妊娠しません。一方、精子は3~5日ほど女性の体内で生き続けますから、排卵前のセックスでも妊娠します。排卵日が一番妊娠の確率が高くて、おおむね36%くらいです。

 そして、ノルレボ錠は、排卵前に服用すると排卵を抑制する、あるいは排卵を遅らせることができるため、避妊が可能になります。僕たちの長い研究の結果、ノルレボ錠を服用することで、排卵がだいたい1週間ほど遅れることがわかりました。精子の生存期間は3~5日なので、排卵を遅らせれば、妊娠に直結することはありません。ただ、排卵後ならノルレボ錠を服用する必要がありませんから、排卵前なのか排卵後なのかの判断はとても重要です。僕のクリニックでは、研究の意味合いも含めて超音波などで排卵前なのか排卵後なのかを調べて、服用してもらうかどうかを決めています。


――ノルレボ錠を処方してもらえるのは、避妊に失敗したときや、レイプ被害に遭ったときですよね。

北村 避妊しなかった、あるいは避妊できなかった、そしてレイプされた場合など、いわゆる避妊が適切に行われなかった、あるいは十分でなかった性行為があった場合、72時間以内に1.5mg錠のノルレボ錠を服用することで、約90%の確率で妊娠を回避できます。避妊が十分でなかった場合とは、コンドームが破けたり外れたりしたとき、コンドームが膣内に落ちてしまった、膣外射精で不安だ、などという場合です。

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