『あなそれ』で、“体育会系リア充”の嫌な男を完璧に演じた劇団EXILE・鈴木伸之
特に、説得力があったのが、鈴木伸之が演じた有島光軌である。有島はスクールカースト上位のモテる高校生がそのまま大人になったような好青年だ。仕事もちゃんとしているし、奥さんも子どももいて、客観的にみれば非の打ちどころがないカッコいい男である。
そんな有島が美都とあっさり不倫をしてしまうのが本作の恐いところだ。その流れがすごく自然なので、今までも、寄ってくる女と浮気してたんだろうなぁと想像させる。有島にとって美都は単なる浮気相手でしかなく、一番は麗華であり生まれたばかりの子どもである。この優先順位は絶対に崩れず、しかし下半身だけは欲望に忠実で、とりあえず美都とも、ヤレたからヤッただけなのだろう。
そのあたりのバランス感覚が、モテる男のメンタリティという感じで、“リア充”の恐いところを見せられたなぁと思った。
有島を演じる鈴木伸之は現在24歳。劇団EXILEに所属する俳優だ。テレビドラマにおいて鮮烈な印象を残したのは、池井戸潤原作のドラマ『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)で演じた社会人野球チームのピッチャー・如月一磨だろう。傲慢な性格の如月は、相手を見下したような表情で薄笑いを浮かべながらボールを投げ、その時の憎たらしい顔は今でも覚えている。
その次に出演した『水球ヤンキース』(フジテレビ系)では、主人公のライバル校の水球部の選手・郷田剛を演じていて、コイツも嫌な奴だった。映画『霧島、部活やめるってよ』ではバレー部の副キャプテンを演じていたが、どの役にも共通するのは、運動部の先輩が後輩を顎で使う時の“いじめっ子感”で、「こういう奴いたわ」と学生時代の記憶が刺激される。こういう体育会系“リア充”のマイナス面を演じさせたら鈴木伸之は完璧である。
映画やドラマといった多ジャンルで展開する『HiGH&LOW』シリーズの成功もあってか、劇団EXILEの町田啓太や、三代目J Soul Brothersの岩田剛典といったEXILEの若手がテレビドラマに進出し、大きな役を演じることも多くなっている。
鈴木もその1人だが、彼がほかのEXILE俳優と違うのは、憎たらしい悪役が演じられることだろう。今回演じた有島はその極致であると同時に、芝居にわざとらしさがなく、自然に振る舞っているだけで嫌な感じがにじみ出ていたことに、役者としての成長を感じさせる。
最終的には、わかりやすく気持ち悪い涼太を演じた東出昌大が話題を全部持っていったような終わり方となってしまい、後半になると有島の面白さが失速して終わってしまったのが残念だが、本作で片鱗を見せた「体育会系リア充」の空気感を生かし、鈴木伸之には今後もイヤな奴を演じ続けてほしい。
(成馬零一)