カルチャー
シルバーウッド代表・下河原忠道氏インタビュー

「認知症は不便があっても不幸ではない」VRによる疑似体験で変わるもの

2017/05/19 15:00

 こうした活動を続ける中で、特に課題を感じたのは、認知症の人たちに対して一般の人が抱くイメージだったそう。

「認知症になると、“不便”はあっても“不幸”ではないと思うんです。問題なのは認知症の当事者や家族が生きづらい社会。『認知症になったら人生終わり』という思い込みによる偏見をなくすためにはどうすればいいのかと考えた結果、VRが有効なんじゃないかと。啓蒙活動の一環には、『認知症サポーター養成講座』という約850万人が受講した有名な講座があるんですが、座学では得られないことをVRでは体験できるんじゃないかと思ったんです」

 VR作品の事例としては、電車で行き先がわからなくなるアルツハイマー病や、ないものが見える幻視という症状が特徴的なレビー小体型認知症など、認知症の中核症状を体験できるというものがある。内容は認知症の当事者や介護職員にリサーチの上、組み立てているそう。360度見渡せる臨場感ある映像への反響は大きく、学校や企業からVR体験会の要望が絶えず、1年で約3,500人が参加した。

 体験した人の中には、認知症のある人を家族に持つ人もいたという。

「認知症の親御さんが高齢者住宅に入居していて、近くのコンビニに買い物に行くそうなんですが、物忘れが進行していたので、心配した息子さんが『行っちゃダメだよ』と言い聞かせていたらしいんです。でも、VRを体験し終わってから、『親が買い物に行く楽しみを奪おうとしていた。自分は間違えていました』と話してくれました。その後、コンビニに行って店員さんに親御さんの顔写真を見せて、『これからも買い物に来ると思うので、何かあったら連絡をください』とお願いしたそうです。認知症のある人の生き方を否定することなく、我々が変わることが大事なんじゃないかなって思うんです」

 もちろんきれい事だけではない。スムーズなコミュニケーションが取れないことに、イライラすることだってあるはずだ。それでも、「病人だといって特別扱いをする必要はない」と下河原氏は考える。

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