『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』著者・上間陽子さんインタビュー(前編)

「基地が間近にあるのは、それだけで暴力的な体験」風俗業界で働く女性から見える沖縄の現実

2017/03/19 17:00

■基地が間近にあるのは、それだけで暴力的な体験

 とはいえ当然のことながら、同じ沖縄に生まれ育っても、暴力と無縁に育つ女性は多くいる。彼女たちの境遇を分け隔てているものは、いったい何なのか?

「家庭環境が最も大きいですね。沖縄は地域的な階層格差がとても強く、特にここ10年ほどで富裕層が集中して住む地域が増えてきて、格差はますます広がっています。そうしたひずみが、経済的に困窮した家庭において、暴力という形で出やすいように見えます。さらに『エイサー』といわれる、各地の青年会のような共同体があるのですが、中高生のうちから、そこに参加する子もいます。エイサーはそもそも男性中心的な色合いが強い上に、とても厳しい秩序が敷かれているところもあります。そうした中では暴力や性被害が起きやすく、しかも被害を受けても、それを外に出しません。先輩後輩の上下関係が極端にはっきりした地域でも、同様のことが起こりやすいですね」

 同書にも年齢差を理由に「俺は先輩で、お前は後輩だから」と夫に殴られる妻のエピソードが収録されている。

「また、調査をしていて、米軍基地に近い街の子と暴力の結びつきが強いと感じるようになりました。基地が間近にあるのは、それだけで暴力的な体験です。まがまがしいことが起きても、まがまがしいと感受されない。昨年、うるま市で元海兵隊員が20歳の女性をレイプした事件がありました。そのときに、暴力の話と性被害の話を抜きにして、いま沖縄で生きている若い女性の問題は書けないと思いました」


 暴力にさらされている女性たちの問題は、暴力を振るっている男性たちの問題でもある。

「沖縄の少年たちは、中学生ぐらいで先輩から暴行を受けるようになり、そのうち自分たちも暴行をする立場になります。その過程の中で、嫌な言い方ですが、暴力に慣れ親しんでいくんです。どうやったら相手へ的確にダメージを与えるかを、10代にして知り尽くしています。私の共同研究者である打越正行さんが、10年近く男性たちの調査を続けていますが、家庭に経済的資本がないと、早くから自分で稼がなければならなくなるのですが、その多くは建築業界に進みます。そうした中には、オレオレ詐欺や高利貸しといったアウトサイダーな世界に取り込まれてしまう子もいます。でも、どこに逃げても、先輩から後輩への暴行、同輩の間での暴行がある。暴力を振るう相手が妻や恋人といった女性の場合は、ダメージが大きいため事件化することもありますが、男性同士の暴力は、まず表に出てこないのが問題です」

 上間さんへのインタビュー後編では、暴力と隣り合わせの日常を送る10代の少年少女たちに、大人はどう対応しているのかについて伺う。
(三浦ゆえ)

(後編へつづく)

 


最終更新:2017/03/20 21:15
裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)
女性だけの問題でも、男性だけの問題でもない