誰も幸せにならなかった作品……

“『ラストタンゴ・イン・パリ』は本当にレイプだった”という報道は、メディアのミスリード?

2016/12/07 20:00
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『ラストタンゴ・イン・パリ オリジナル無修正版』

 イタリアの名監督ベルナルド・ベルトルッチが1972年に製作した、伊仏合作映画『ラストタンゴ・イン・パリ』。「名前も知らない初老の男と若く美しい女が、セックスだけの関係を結び、肉欲に溺れていく。次第に男は女に醜く執着するようになり、2人は狂気の世界を見ることになる」といった内容で、性行為のシーンが多いため、世界中で物議を醸した。特に女性の尻にバターを塗り、強引に行うアナルセックス・シーンは、世間に大きな衝撃を与えたと伝えられている。

 一般公開されて44年たった今、この作品が再び物議を醸している。そして、監督と、初老の男を演じた名優マーロン・ブランドに対する激しいバッシングが巻き起こっているのだ。

 発端は12月1日にイギリス版「Yahoo!映画」に掲載された、「ベルトルッチ、悪名高き『ラストタンゴ・イン・パリ』の“バター”レイプシーンは、合意に基づくものではなかったと認める」というショッキングなヘッドラインの記事だった。これは、11月23日にYouTubeに投稿された同様のタイトルの動画を紹介したもの。動画は2分29秒と短いもので、そのほとんどは2013年にパリのシネマテーク・フランセーズで収録されたベルトルッチ監督に対するQ&A映像で占められている。

 問題の動画は、「11年2月3日、マリア・シュナイダーはパリで亡くなった。58歳だった」「彼女は19歳のときにベルトルッチの『ラストタンゴ・イン・パリ』でマーロン・ブランドと共演した」「(彼女の死から)2年後、ベルナルド・ベルトルッチはマリアについて語った」という文字が出た後、Q&A映像が流れる。車いすに乗った監督は、「かわいそうなマリア。彼女が亡くなったのは、確か2年前のことだったね。あの映画の後、彼女に会うことはなかった。彼女から嫌われていたから」と言った後、大きく息を吸い、「“バターを使った一連のシーン”は、私とマーロンが思いついたものだった。撮影の朝にね」と告白を始める。

 「ある意味、マリアに対して酷なことをしてしまった。彼女にはなにも伝えなかったからね。伝えなかったのは、彼女の女優としてではなく、若い女性としての反応を撮影したかったからだ。屈辱を受け、ノー! ノー! と叫ぶ姿が欲しかったんだ」と懺悔するかのように語る。この間、画面には画像処理された一連のシーンが流れる。監督は、「彼女は私だけでなく、マーロンも嫌っていたと思う。潤滑剤としてバターを使うことなどの詳細を伝えていなかったからね。そのことは後ろめたく思っている」と発言。


 インタビュアーの「そのようなシーンを撮影したことを後悔していますか?」という質問に対しては、力強く「ノー」と答えるが、「でも後ろめたく思っている」「後悔していないが、後ろめたさはある。完全に解き放たれないと、手に入れられないものもあると思っている。屈辱や怒りを演じるマリアなど欲しくなかった。マリアには……演じるのではなく……怒りや屈辱を感じてほしかったんだ。その結果、彼女は私を生涯嫌うことになってしまった」と言い、Q&A映像は終わる。

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