[連載]マンガ・日本メイ作劇場第44回

『せいせいするほど、愛してる』に見る、少女マンガで「恋愛と仕事」を両立する難しさ

2016/09/18 21:00
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『せいせいするほど、愛してる』(小学館)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女漫画史にさんぜんと輝く「迷」作を、少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子がひもといていきます。

 タッキーこと滝沢秀明の情熱的なエアギターに、異臭がするほどのクサいセリフ、そしてよくわからないシチュエーションでのチュー……舞台となるティファニーのイメージダウンとしか思えない安っぽいビジネスシーンで話題沸騰のドラマ『せいせいするほど愛してる』(TBS系)。当初の衝撃もかなり薄まり、なんとなーく視聴率はジリ下がりのまま推移しているという。

 今回ご紹介する、ドラマと同名タイトルの原作『せいせいするほど、愛してる』(小学館)は、ロワールというコスメ会社の副社長である既婚者の海里と、そこの広報で働く未亜の不倫物語である。とはいえ、女性向けマンガであることから、“不倫推奨”というわけではないのだろうが、ぶっちゃけこの副社長、悪者にしか見えないのである。

 副社長は、既婚者とはいっても妻との関係はすでに壊れていることから、未亜に手を出すことに悪気はないのかもしれない。だけどさ……。副社長の未亜に対するアピールが、セクハラとしか言いようがない! 例えば、元カレにつきまとわれている未亜を助けるのに、副社長は彼女にキスをして元カレをけん制するのだが、そこでチューは必要なのか? また、未亜に靴を買ってあげる際も、なぜお姫様だっこが必要なのか? さらには、風邪を引いた未亜の熱をチューで測る必要があるのか……!!??

 副社長、あまりに未亜にちょっかいを出しすぎなのである。2人は副社長と社員の関係であるがゆえ、これはもはやラブシーンではなく、パワハラというかセクハラというか、とにかく悪い匂いしか感じない。


 そんな、あからさまなセクハラにしか見えない副社長の愛情表現に、未亜はコロッとイッてしまう。元カレとうまく別れられなかったり、仕事で困っているときに、正義のヒーローのようにやって来ては、せっせと助けてくれるのだから、クラッとくるのも仕方がないけど、「お願い、目を覚まして」と言いたくなる。

 ある意味、お似合いな2人かもしれない副社長と未亜。しかし、不可解な点がある。副社長が、未亜のホテルの部屋に姿を現すシーンがあるのだが、それまでしてなかった薬指にリングをはめてるのだ。あんなにセクハラまがいのことをしておいて、肝心なときにちゃっかりリング? この副社長、一体何がしたいんだ。「俺はストップかけてたんだけど、向こうが迫ってきて仕方なく」なんて言い訳するために、押しては引いて、押しては引いてのさざ波アプローチをしてるんじゃないのか?

『せいせいするほど、愛してる(新装版)1(フラワーコミックスアルファ)』