カルチャー
不妊治療のやめどきと、子どものいない人生(後編)

「治療を終えても不妊は終わらない」子どものいない人生を受け入れるために大切なこと

2016/07/12 15:00

■不妊治療を終結した後の生き方

――不妊治療を終結した後の夫婦に対して、ストレスになるものは何でしょうか?

永森 ひとつは、家族関係です。例えば自分は子どもができなかったけれど、きょうだいに子どもが生まれた場合、両親も孫をかわいがって、きょうだいとの関係性の方が密になり、自分の入る場所がない。冠婚葬祭や盆暮れで親戚が集まる席にも行きづらく、きょうだいの仲が悪くなったというケースもあります。

 当たり前のように何人も子どもが生まれる時代を生きてきた世代のご両親等は、子どもができない状況を容易に受け入れられないと思いますが、不妊治療中、あるいはあきらめる決断をした当事者にとって、家族の理解や支援はとても大切なものです。

 もうひとつは職場の問題です。今は妊娠や出産、育児休暇制度がしっかりしていて、託児所を設けている会社もありますよね。社会は、女性に頑張って子ども産んでほしいという流れがあります。そういったレールができている一方で、不妊治療中の人や、終結を決断するタイミングを模索している人が、働きづらさを感じておられる実情もあります。職場での妊娠出産の話や、出産・育児休暇制度を取る人との関わりも、そのひとつです。それを言いだしたら、マイノリティに企業がどう対応するかという、さらに大きな話になってしまいますが、職場の問題も、大きな問題のひとつとして存在しているということは知っていてほしいと思います。

――不妊治療を終結した後、どういった気持ちを持って生きていくことが大切でしょうか?

永森 治療をやめたら、子どもをあきらめたら不妊が終わるわけではなく、生涯不妊と折り合いをつけていく必要があると思うんですね。楽しく人生を謳歌していても、生活していれば、子どもがいないことを意識させられる場面が、あちこちにあるわけです。

 死に近づいていくにつれて、自分のたすきをつないでくれる相手がいない、自分の生き様を見ていてくれる人がいない、自分のことを親身に考えてくれる人がいない、そういった寂しさや切なさは、募っていくように思うんですね。これも自然なことですが。

 そういう時に耐え得る自分でいられるように、自分を大事にしながら、不妊と上手に向き合っていく。そうすることで耐性ができ、勇気や強さも備わり、自分だけの人生を豊かに思えるようになるのだと思います。かさぶたが厚くなって剥がれたら、また新しい皮膚ができるように、自分に備わっている再生力を信じていただきたいですね。

 私の周囲には、子どもをあきらめた後、人生の再構築をされ、生き生き暮らしている方がたくさんいらっしゃいます。

 男性不妊が原因でお子さんをあきらめたご夫婦は、互いにその葛藤を乗り越え、現在お2人だけの人生を歩んでいますが、共通の趣味の山登りにいそしまれています。素晴らしい光景を写真に収めてはフォトブックを作成され、時々私にも送ってくださるのですが、それはそれは見事な景色で。素晴らしい自然の中にお2人身を置きながら共に生きていらっしゃる様子に、私の方が勇気をいただいています。

 また、子どもをあきらめた後、ずっと踏ん切りがつかなかったご実家の家業を継ぐことを決断し、現在責任者として采配を振るっておられる女性もいます。将来託す人は見つかっていないけれど、いま自分ができることを精いっぱいやれば、また見えてくるものもあるはずと、ご自身の運命を笑顔で受け止めていらっしゃいます。まさに、大きな山を乗り越えたような強さを感じますね。

 愛情あふれる犬たちとの暮らしを大事にされながら、ご自身もドッグトレーナーの資格を取得され、犬たちを老人ホームに連れていったり、そのための訓練に励まれている方もいらっしゃいます。

 彼女たちの笑顔、いい笑顔なんですよ。ご自身の運命と、とことん向き合われてきたからこそですね。
(田村はるか)

永森咲希(ながもり・さき)
1964年、東京生まれ。聖心女子大学外国語外国文学科卒業後、外資系企業に勤務。6年間の不妊治療の末、子どもをあきらめた自身の経験をもとに、一般社団法人MoLiveの代表を務め、当事者および周囲の人々に対する支援活動、主に終結を迎える時期と、子どもをあきらめてからの葛藤を重視した活動に従事している。
MoLive 

・平成 28 年度港区立男女平等参画センター リーブラ助成事業主催イベント 「夫婦の困難 どう乗り越える?」
第2回 流産・死産を乗り越えて ~支援者の立場から・当事者の立場から~開催
日時:10月30日(日)
会場:港区立男女平等参画センターリーブラ

最終更新:2016/07/14 13:03
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