サイゾーウーマンカルチャーインタビュー不妊治療する女性の苦悩 カルチャー 不妊治療のやめどきと子どものいない人生(前編) 「不妊治療には医学的な限界がある」専門クリニック院長に聞く、通院する女性の苦悩 2016/06/23 15:00 インタビュー不妊治療 はらメディカルクリニック・原利夫院長 女性の社会進出、晩婚化が進み、不妊治療に励む女性の数も著しく増加し、その認知度も高まった。一方で、そうした女性たちを取り巻く社会的な課題は数多く残されている。不妊治療・不妊専門クリニックである、はらメディカルクリニックの原利夫院長に不妊治療の現状を聞いた。 ■医学的には限界がある ――何歳くらいの女性が何をきっかけに不妊治療を始める場合が多いのでしょうか。 原利夫院長(以下、原) 女性の場合、40歳を前にして病院に来る方が非常に多いです。男性より女性の方が子どもや家族をつくるということに対して敏感ですし、毎月生理があるからリアルな感覚があります。さらに自分の年齢に対する体の自覚というのもあって、疲れやすいとか、生理が不順であるとか、子宮筋腫が会社の検診でみつかった、などがあると、妊娠に対しても「限界があるんじゃないか」という不安は不妊治療を始める大きなきっかけになります。 さらに、ニュースで40歳を過ぎて出産する芸能人もいると報道されるため、漠然とした不安と希望とが入り混じった状態で来院される方が多いです。 ――不妊治療を始める前に女性が知っておいた方がいいこと、考えておいた方がいいことなどはありますか。 原 医学的に限界があるということと、病院に行ったからといって、どうにかなるものではないということを言いたいですね。先ほども言ったように不安と希望とを持って治療に励もうと来る女性は、病院に行けば、なんとかなるのではないか、と思って来る方が非常に多いです。 ただ、卵子の年齢というのは生まれつき持っているものなので、血管年齢のように実年齢より若いことはありえないです。精子は毎日つくられますから、60歳を超えても赤ちゃんができる人がたまにいますが、卵子はお母さんのおなかの中にいる時から持っているもので、実際は実年齢+1歳。老化が少し早いということですね。 43歳を過ぎると妊娠する可能性がかなり低くなりますし、40歳を過ぎてから妊娠した赤ちゃんに障害がある可能性も高くなる。通院のこと、お金のこと、最終的には赤ちゃんの障害のことといった事実をきちんと知った上で治療を考えてほしいですね。 ■男女の温度差が女性を苦しめる ――治療中の女性がストレスに感じるのは、どういったことでしょうか? 原 1つは、働いている女性は治療の時間がなかなか取れないということです。不妊治療に対して社会的な認知がまだ低く、単語として知っている人はいても「今日検査があるから仕事休みます」と言って許してもらえるかというと難しい。 突然排卵することもあるので、今日診察に来ても「明日の午前中にもう一度来てください」という場合があります。その場合、いくら有給があるといっても1カ月前から申請しなくてはいけないのであれば意味がなく、休みが取れなければ妊娠のチャンスを逃してしまうことにもなります。 有給などのシステムにしても、病気であれば手術してその後は月に1回の通院でいいとなりますが、不妊治療は病気ではなくて果てしなく続くので、1カ月に3回休みが取れるとしても、「今日から3日間連続で病院に来てください」となった時に、急には休みが取れないことが多いですよね。 仕事をしながらの治療は非常に難しいのが現状で、男性にしてもそれは一緒です。「朝来てください」と言っても「会議があるので無理です」となると、妊娠するチャンスを逃すことになるので、奥さんと喧嘩してしまうこともあります。仕事はもちろん大切なのですが、それと同じパワーを不妊治療に向けることはできないというのが現実ですね。 ――不妊治療の際の男女の考えの差がストレスになると聞いたこともあります。 原 極端な話、男性は奥さんが元気であれば2人で楽しく暮らそうと思っているわけですよ。子どもができなかったとしても、「お前と結婚したんだから、お前と一緒に一生を終えましょう」とか、そういう考えもある。けれど、女性は子どもがいないと家庭にならないという考え方があるように感じます。 女性は治療をしてなんとか子どもが欲しいと思っているので、毎日注射に通うといった苦労を惜しまないけれど、男性はそういう奥さんをみていて負担が大きいのではないかと心配して、「そこまでしなくていいんじゃない?」と声をかけるわけです。でも、それが女性からすると「子どもはいらない」に聞こえてしまう。その温度差が女性を苦しませることもあります。 さらに言えば、女性は赤ちゃんができると思えば、どんなに痛い注射も我慢するし、そういった痛みや努力といった肉体的な部分は乗り越えていくことができます。でも、精神的なものや環境的なものは乗り越えていくのが難しい。友達はみんな妊娠して子どももいるから同窓会に行けないとか、妹に子どもが2人いるのに私にはいないとか、そういう社会的な問題で鬱に近い状態になってしまう人も多いです。 12次のページ Amazon 図解赤ちゃんがほしい人のための本-二人で治す不妊 (池田書店の妊娠・出産・育児シリーズ) 関連記事 不妊治療6年間600万円の末たどり着いた「里親」という選択 漫画家・古泉智浩さん遺伝子にこだわる向井亜紀と、姓を残したい野田聖子。不妊治療で浮き彫りになる法の難しさ「不妊治療始めます」、東尾理子が告白せざるを得ない"宿命"とは?「不妊は母の遺伝」「高熱で無精子症に」氾濫する不妊症のうわさの真偽とは?「結婚しなくてもいいが、子どもは欲しい」もはやマイノリティではない、未婚男性“ソロ男”の生態