サイゾーウーマンカルチャーインタビュー子どものいない人生の受け入れ方 カルチャー 不妊治療のやめどきと、子どものいない人生(後編) 「治療を終えても不妊は終わらない」子どものいない人生を受け入れるために大切なこと 2016/07/12 15:00 インタビュー不妊治療 ■治療をやめたら不妊が終わるわけではない ――不妊治療の終結について、考えるべき時期や、大切なことはなんでしょうか? 永森 終結を考えるべき時期……これは大変難しいテーマですが、とても大事なことです。肉体的には考えるべき時期はあるでしょう。年齢、卵胞の発育具合、ホルモン値等を総合的に診て判断する。治療をしていると、自分の体の状況に詳しくなるので、例えば卵胞の成長が衰えてきたとか、受精しなくなってきたといったシグナルで、おのずと妊娠の限界を感じる瞬間が出てくる。残念ながら、わかってくると思うんですね。“予感”といいますか。ただその時に“納得”できるかどうか、心も終わりにすることができるかどうか。それが重要なんですね。治療中は、実際私もそうでしたが「今回がダメでも、次は大丈夫に違いない」と、やみくもになってしまいがちなんですね。 “ハードランディング”“ソフトランディング”という言葉が、不妊治療の終結における大切なキーワードだと考えています。ハードランディングとは、地面に叩きつけられるような着地、つまり緊急着陸のことです。高齢でなかなか妊娠できない方たちは「今度こそ絶対妊娠する!」と思って長年治療をやり続けていて、妊娠という目的地に向かって必死に飛んでいる状態です。次第に感じるはずなんですよね。燃料もなくなり、機体も弱ってきていることを……。普通だったら、その状況を自分なりに判断して、目的地に行けないのであれば、このへんに着陸しようかな、と妥協しますよね。でも不妊治療だけは、目的地を目指してしまうんです。治療をしている時は、まだ希望があって気力も保てますが、ある時突然「治療をやめましょう」となると、これはものすごい衝撃を伴います。 そこで大切なのが、ソフトランディングという考え方で、“希望の目的地まで行けないかもしれないと「自覚する」”ということです。自覚すると、それまでより少し俯瞰的に状況を見ることができるようになると思うんですね。別の終着地点を考えてみることで、終わりにできない治療に区切りをつける、ひとつのきっかけになるのではと。妊娠を信じて信じて、突然やめなくてはならない状況と比較すると、着陸後の機体へのダメージも違ってきますよね。ここを終着地点にしたら、こういうことができるかもしれない、楽しみがあるかもしれない、と考えられる自分をつくっておくことで、着陸後のダメージが違ってくるのではないでしょうか。不妊治療の終結を大事にすることは、次の人生、子どもがいない人生を歩んでいくための大切な種まきの時間を大事にすることとイコールだと思っています。 ――実際に永森さんがそういったことをお話しされても、受け入れられない方も多いのではないでしょうか? 永森 「私には関係ないわ」「あなただって、当時はそんなこと考えられなかったでしょう」と言われることもあります。それももっともなお話なんです。どこをどう飛ぼうが、おひとりおひとり独自の問題ですし、ご自身の納得が一番なわけですから。実際、私も治療をなかなかやめられず、あえてそういったことを考えないようにしていた時期もあったくらいですから、その気持ちは、とてもよくわかります。自分が負のスパイラルに入っていて「コレじゃいけないな」という考えがちらちらと頭に浮かぶ状況も経験しているので、その複雑さも理解しているつもりです。 私が経験したように、妊娠に向けて治療に励みたい気持ちと、治療をやめなければいけない時が近いうちにくるかもしれないという絶望的な気持ちとが拮抗した状態の方が、少なからずいらっしゃいます。不妊治療を終えても、不妊が終わることはないと思っています。子どもがいないという事実を抱えながらも、自分の人生をしっかり豊かに歩いていくためには、どうしたらいいのか。それには、不妊治療の終結を丁寧に扱うことが大切なのではないでしょうか。あきらめたからといって、すぐにやりたいことが見つかる人はいいですが、多くの方は喪失から自分を立て直す作業を始めるわけです。でも、そんなに簡単に新たな目標なんてみつからないですよね。一歩を踏み出すにはエネルギーも必要。それを私自身体験してきましたので、難しいことではありますが、あえて終結の時が大事だと申し上げるようにしています。 前のページ123次のページ Amazon 三色のキャラメル 不妊と向き合ったからこそわかったこと 関連記事 「不妊治療には医学的な限界がある」専門クリニック院長に聞く、通院する女性の苦悩遺伝子にこだわる向井亜紀と、姓を残したい野田聖子。不妊治療で浮き彫りになる法の難しさ「不妊治療始めます」、東尾理子が告白せざるを得ない"宿命"とは?「不妊は母の遺伝」「高熱で無精子症に」氾濫する不妊症のうわさの真偽とは?不妊治療6年間600万円の末たどり着いた「里親」という選択 漫画家・古泉智浩さん