コラム
仁科友里の「女のためのテレビ深読み週報」

三遊亭円楽“不倫謝罪会見”の最も気持ち悪かった点――「度量の広い妻」賛美への疑問

2016/06/16 21:00

 恥をかかせられても激高せずに、どんな時も夫の仕事を一番に考えるあたり、典型的「度量の広い」妻である。大病すると健康のありがたさに気づくのと同様、円楽はこうしたエピソードによって、「傷つけてわかる妻の偉大さ」「妻よ、ありがとう。こんな時も優しくしてくれる妻を持って俺は幸せだ」などとアピールし、不倫騒動を巧妙にお涙頂戴の人情話にすり替えることに成功しているのだ。

 極めつきは、このエピソードである。「『身から出たサビだ』と言ったら、妻が『サビも味になるわよ』って言ってくれた。まいっちゃうよ」である。この発言からは、「妻が許してくれているから問題ない」という円楽の気持ちが透けて見えるし、自分が妻を傷つけておきながら、妻をすごいと称えることによって、「噺家の妻は、不倫ごときで動じるべきではない」と論点を妻のあり方にすり替えているのである。

 6月12日放送の『Mr.サンデー』(フジテレビ系)を見ると、論点のすり替えは見事に成功していると言えるだろう。30~60代の一般人の男女に円楽の会見を見せて、感想を述べ合っていたのだが、各年代の女性たちはいずれも、「さすが落語家の奥さん」と妻を絶賛しているのだ。

 なぜ、女遊びにも動じない「度量の広い」妻が賛美されるのかといえば、それが“夫の成功”につながると思われているからだ。しかし、円楽が成功の1つの指標となる『笑点』の司会にはならなかったことを考えると、女遊びは芸の肥やしになっておらず、いわば契約不履行、無駄な苦労なわけだが、女性たちはそのあたりは不問らしい。

 同番組司会の宮根誠司は、「謝罪会見の見本をあえて見せようとした」「『笑点』新司会の春風亭昇太さんのために、あえてネタを提供した」とわけのわからない擁護をしているが、実は宮根も謝罪会見経験者である。宮根は現夫人ともう1人の女性と二股をかけていた(要は不倫)が、夫人ではない方の女性に子どもができ、出産。宮根がその事実を告げても、夫人は責めなかったそうで、会見でそんな夫人を「ごっつい嫁はんや」と褒め称えていたのである。

 スネに傷を持ち、また世論を変える力のあるオトコが、話のすり替えに加担する。司会者である宮根が円楽を擁護したら、アナウンサーやコメンテーターも空気を読んでその方針に従わざるを得ないだろう。だから、いまだに「度量の広い妻」を男性のみならず、女性も信奉する。不倫なんかより、そっちの方がよっぽど気持ち悪い。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。最新刊は『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)。
ブログ「もさ子の女たるもの

最終更新:2016/06/22 14:50
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