仁科友里の「女のためのテレビ深読み週報」

博多大吉、女芸人への絶妙なプレゼントに見る、彼が「本当に優しい大人」たるゆえん

2016/05/12 21:00

 この番組の二元論的な価値観から言うと、多数の後輩に囲まれた関は幸せなのだろう。しかし、私にはそうは思えないのだ。芸人の世界では、どんなに売れていなくても、「先輩がおごる」という慣習だと聞いたことがあるが、関は自腹で自分より売れている後輩、森三中・黒沢かずこや椿鬼奴らをもてなしている。しかも招かれた側は手土産もなく、後片付けも手伝わず、ただ食べて帰るだけだ。

 心理学的に言うと、一方的に“相手に何かをやってもらった”側は、精神的負担を感じ、その人間関係が煩わしくなるという。むしろ“何かをしてもらった相手”へ返礼行為をすると、相手への感謝度が高くなることが証明されているが、私には後輩がそれほど関のもてなしをありがたがっているように見えないのだ。食べられないレベルの芸人であれば別だが、売れている後輩であれば、今更開運飯は不要だろう。後輩のためと見せかけて、実は喜んでいるのは関本人なのではないだろうか。

 このVTRに登場していた、関と20年来のつきあいである先輩の大吉は、当初「関、その開運飯、まずはおまえが食え」とまず本業での奮起を促したが、最近関に、大きな冷蔵庫と、それを埋め尽くす食材を送ったそうだ。自分が売れる努力をしろとアドバイスしていた大吉が、開運料理のために必要なものを送るのは矛盾しているように感じられるが、大吉の行動は理にかなっている。

 大吉のすごい点は「関の料理はずっとうまい」としながらも、「みんながそこまで感謝しているかと言うと、そうでもない」と、呼ばれる側の少しの悪意も理解しているところだ。開運飯関連の仕事が増えている関にとって、料理を披露する場所と後輩の存在は必要不可欠なわけだが、大吉が食材を提供することで、関の経済的負担は減り、ひいては客の精神的負担も減る。冷蔵庫と食材のプレゼントは、単なる自己満足ではなく、四方八方丸く収まるオトナの判断であると言えるだろう。

 『年齢学序説』(幻冬舎よしもと文庫)において、大吉は自身を「ものすごくネガティブなポジティブ」と分析している。大吉は、さまざまな媒体のインタビューにおいて、「チヤホヤされても信用しない」といったネガティブなコメントを残しているが、その結果、調子に乗らずに成果を出しているわけだから、普通のポジティブより頑強なのである。同様に、悪意を知るからこそ、相手にメリットをもたらす完璧な善意を発揮することができるのではないだろうか。オトナの優しさに、悪意は不可欠なのである。


仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。最新刊は『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)。
ブログ「もさ子の女たるもの

最終更新:2016/05/12 21:00
『年齢学序説(幻冬舎よしもと文庫)』
「博多大吉と結婚したい」という女の気持ちを理解