[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」4月26日号

「内面の美こそ不変」という呪詛で読者を絶望させる、「婦人公論」のエイジング特集

2016/04/23 19:00

 「コンプレックスから解放され自信を取り戻して」は老化の共同戦線をイチ抜けして、「シワ取り、豊胸、永久脱毛、ウィッグ」に踏み切った女性たちのルポルタージュです。夫の浮気、病気、過去の恋人からの呪詛など理由はさまざまですが、みなさん「お金で自信が買えるなら」とまったく後悔はしていない様子です。還暦を前にプチ整形した62歳の女性は、「人生の『いい時』は短い。いろいろな経験をして、やっと豊かな心が備わったと思ったら、容姿に自信がなくなってしまうなんて」と語ります。それは前述の齋藤氏とはまったく異なる、「美」と「若さ」の相関関係でした。

 幼い頃から、「あなたより○○の方が美しい」とささやく意地悪な鏡に取り囲まれて生きてきた女性たち。そんな女性に「内面の輝きこそ唯一永遠の美である」と説くことはある面では救いであり、またある意味では絶望なのかもしれません。願わくばアンチエイジングに時間とお金をたっぷりかけた上で「女の生き方って顔に出るからサァ(脳内ボイス:桃井かおり)」としたり顔で語りたいものです。

■いつまでもあると思うな連載枠

 さて、続いて紹介するのは、本レビュー久々の登場となる江原啓之。現在、江原は「婦人公論」にて「あなたはどちらの未来を選ぶ?」という連載を持っています。「婦人公論」読者がぶち当たりそうな問題に二択の答えを用意し、どちらを選ぶかで幸福度指数を計るというもの。

 例えば今回「家庭的な夫が浮気しているようだ。そのことで頭がいっぱい」という問題の答えは、「A.事実を確認する」or「B.見てみないフリをする」。幸せ度数がより高いのは「A」なのですが、それよりもこのお題に対する江原のコメントが問題。「夫の浮気が真実だと明白になったとき、あなたはどうするのか、心の整理をしておく必要があります」「たとえば夫が『今日は遅くなる』と言ったら『彼女とデート?』と冗談っぽくサラリと伝えてみる(中略)それでも夫の態度に変化がみられない場合は、事実関係を確認する段階へとすすめましょう」などなど。どうでしょう、この真っ当な人生相談。江原が江原である所以は、なんでもかんでもスピリチュアルで処理する雑さにあるというのに、こんなの単なる夫婦問題カウンセラーじゃないですか。

 芸能界には枠があるとよく言われますが、「婦人公論」も例外ではありません。特集内で、ポスト江原になりそうな人物を見つけてしまいました。女優・草刈民代と「神経と体を深く休ませる究極のアンチエイジング『ヒマラヤ瞑想』とは」という対談をしている相川圭子氏その人です。肩書は「ヒマラヤ大聖者」。「女性で史上初、サマディ(究極の悟り)に達した、世界で2人のシッダーマスターの1人。5000年の伝統を持つヒマラヤ秘教の継承者。2007年、インドのスピリチュアリスト協会『ジュナ・アカラ』より、最高指導者の称号『マハ・マンドレシュワリ』(大僧正)を授かる」と、プロフィールだけでそこいらのスピリチュアリストを失神させそうな勢い。


 すごいのは肩書だけじゃありません。彼女を師と仰ぐ草刈に、控えめながらゴリゴリと瞑想の世界を説く相川氏。「悟りは、深いところで真理に気づくことです。魂を覆っていた心の曇りをとり、本当の自分に出会う」「質のよい瞑想は悟りへと導き、最高の人間に生まれ変わらせる力があります」「深く瞑想していくと、すべてがストップする時があるのね。心を越えた深いところに、変化しないすべての源、永遠の存在、神から分かれた魂がある。そこに還るのです」。全てを瞑想やら魂やらに帰着させるこの論法、どこかで見覚えが……。飛べない豚はただの豚、フツーの江原はただの江原。「婦人公論」スピリチュアリスト枠の争い、今後も注視してまいります!
 
 思えば「婦人公論」でこんなに江原がもてはやされていたのも、複雑な人間関係をスピリチュアルの一言で片づけるずさんな明快さがあったから。もしかしたら中年女性をめぐる複雑な「美」の問題も、誰かにずさんな鉄槌を下されるのを待っているのかもしれません。
(西澤千央)

最終更新:2016/04/23 19:00
婦人公論 2016年 4/26 号 [雑誌]
スピにハマっている人を絶頂させる、相川氏の経歴