『戦場中毒 撮りに行かずにいられない』刊行記念インタビュー

イスラム国を取材した報道カメラマン横田徹が語る、日本が戦争に巻き込まれる可能性

2015/11/06 14:00

――イスラム国の目的は何なのですか?

横田 西洋の民主主義とか、人間が作った法律で国を治めるのではなく、イスラム法で国を統治するのが彼らの目的です。原因は、西洋人が石油を手に入れるために国境線を引き、彼らの土地を分断したことにあるのです。だからそれを元に戻したい。イギリス、フランスが勝手に国境を引いて、アメリカは戦争を起こして莫大な利益を生み出している。オイルマネーは王族だけが得て、彼らは外国で別荘を建て、豪遊して好き放題やっている。

 彼らが言うには、資源は王族など一部が独占するべきものではなく、平等に分配するべきもの。資源はそこに住む人のものなんだという主張です。それは最初から宣言しており、意外とまともな主張です。

――イスラム国とアメリカとの戦いは、今後どうなると思いますか?

横田 アメリカ軍は、現状、特殊部隊による要人暗殺など限定した作戦と、空爆を行うだけで、一向に終わりが見えない戦いをしている。大規模な地上軍を投入するしか解決できないと思う。しかしそれは相当数の犠牲者が出て、戦費もかさみ、アメリカ国民からの支持も得られないから無理でしょう。


 アメリカ軍はイラクとアフガンで長年戦った結果、疲弊どころか悪化している状況で、シリアとイラクへ兵士を送ることは簡単ではありません。イスラム国の兵士は長年の戦闘経験で、どうすればアメリカを苦しめられるかわかっているんです。自爆攻撃も厭わず、神のために死ぬのが喜びみたいな人たちと、家族のために早く帰りたいという派兵期間が決まっている人たちの戦いでは、戦う前から勝敗が決まっている。

――海外旅行先でのテロに備え、気をつけるべきことはありますか?

横田 昔と違い、この国は絶対に安全だということは断言できなくなりました。最近もバンコクで爆弾テロがありましたが、テロに巻き込まれるのは運です。避けようがないですから。けれど、もしも起きたら、興味本位で現場には近づかない。2発目があることを考えてください。わーっと人が集まった時に、そこにもう一度仕掛けることがありますから。それから、デモなどで人が集まっている場所には近づかないほうがいいですね。

――日本の自衛隊が、中東やアフリカに派遣され、戦闘に巻き込まれる可能性はあると思いますか?

横田 十分にありますよ。最近、危機感を持つ自衛官から、よく相談を受けます。イスラム国の兵士たちはどういう武器を使うのか、どういう戦術を取ってくるのかとか。自衛隊では実際に起きるかもしれない状況を想定した訓練をしていないので、不安だと思います。


 今後、自衛官が戦闘地区に派兵された場合、さまざまな困難に直面するでしょう。イスラム国の場合であれば、襲ってくるのは、正規軍ではない民兵のような人たちです。トヨタのピックアップトラックに乗って、予期せぬ場所で襲ってきます。時には爆弾を満載した車で突っ込んでくる。危ないと思ったら、どんなことをしても阻止しなければならない。でも、そういう訓練は一切していないと思います。それから、男性だけでなく、女性自衛官も行くことになると思います。イスラム圏では男性が女性に触れることは厳禁です。だから、ボディチェックなどをするため、女性が必要なんです。

 私は自衛隊、特に陸上自衛隊を戦地へ派遣しない方がいいと思います。戦地へ行って、まともな精神で帰ってくる人はいないですからね。そして戦闘に巻き込まれて敵を殺したり仲間が死傷したら、精神に大きな影響を受けます。身体的な負傷だったら治療方法はありますが、精神が病んだら治療が難しいです。そのような戦地におけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)ケアの体制が整っていないのに、戦地に派兵するのは危険です。

――この本を通じて伝えたかったことは何でしょうか?

横田 この本は、戦争の体験記という面がある一方で、かつての自分のようにやりたいことがわからなくて、悶々と悩んでいる人たちに、死ぬ気でやれば、なんとかうまくいく。戦場に限らず、やりたいことがあれば、ちょっとムチャでもやってみろ、というメッセージも含まれています。

 カメラに出会う前は、やりたいことがわからなくて、いろんなことをやってみてはすぐ飽きてということを繰り返してきました。それでも、24歳の時、初めてカメラというものをいじって、面白いなと思い、これで食べられたらと思ったんですよね。それで、いいものを撮れば、お金になるみたいなことを聞いて、手っ取り早かったのが、フリーの報道カメラマン。若くて経験のない奴でも、カメラを持って人が行きたくない場所に行き、いい写真を撮れば、現地で写真を売ることができる。そういうことが可能だと思っていたんです。だから、本の中では「この写真でいくら稼いだ」ということも全部書いています。

 今、若い人たちは、就職や、経済面で余裕がなくて大変だと思うんです。でも、僕みたいな落ちこぼれでも、死ぬ気で頑張れば達成できる。厳しい社会を生き残ってほしいです!
(上浦未来)

横田徹(よこた・とおる)
1971年、茨城県生まれ。報道写真家。97年のカンボジア内戦からフリーの写真家として活動を始める。その後、コソボ、パレスチナ、イラク、アフガニスタン、ソマリア、リビア、シリアなど世界の紛争地においてスチール撮影、ドキュメンタリー番組制作を行っている。写真集に『REBORN AFGHANISTAN』(樹花舎)、共著に『SHOOT ON SIGHT 最前線の報道カメラマン』(辰巳出版)など。2010年、世界の平和・安全保障に期す研究業績を表彰する第6回中曽根康弘賞・奨励賞を受賞。

最終更新:2015/12/03 21:45
戦場中毒 撮りに行かずにいられない
テロに巻き込まれるのは運