『老人たちの裏社会』著者 新郷由起さんインタビュー

「高齢者は弱者」という幻想を暴いた、『老人たちの裏社会』著者が語る“老いの孤独”

2015/10/25 16:00
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■誰からも興味を持たれないという孤独の深さ

――老後は孤独との闘いだろうとも思うし、いつ自分が本書に出てくる老人たちのように転落するかわからないという怖さもあります。

新郷 生きるエネルギーを、どう使うかでしょうね。「自分は1人で生き切る」と潔く覚悟できると、気は楽になります。中途半端な気持ちを持っている人が、ストーカーとかに走ってしまうんですね。『下流老人』(朝日新書)や『老後破産』(新潮社)が話題ですが、貧乏で孤独な人が全員不幸で、犯罪に走るわけではありません。そうした境遇でも立派に生きて、幸せな人はたくさんいますから、一緒くたにしたら失礼ですよ。どこまで自分の人生に納得できるか。納得できたら幸せじゃないですか。

――生きる目標があれば、グレないで済むんでしょうか。

新郷 たしかに、目標があれば生きられます。要は、自分をどこまで“使っているか”だと思うんです。現役の頃、何億というお金を動かしてきた男性が、リタイア後町内会の会計を任されています。たしかに、それはうれしいことなんですが、達成感ややりがいは思ったより少ないんです。その人のキャパが100あるうち、町内会の仕事で使っているのは30だけ。満たされていない残りの70を、自分でどう使うか、ですよね。


――そう考えると、高齢デリヘル嬢やAV女優は、プロとして自分を100%使っていますね。

新郷 性サービスに従事する高齢女性を描くことには、批判もあるだろうと覚悟していました。ところが、女性読者からは「立派だ」という声も少なくなかった。高齢女性が、自立して生活していて、それもその人の生き方だと認められている。一昔前なら、とてもそういう感覚はなかったと思うんですね。

――プロ意識を持っていて、カッコいいとさえ思いました。

新郷 本書にも登場している日本最高齢のAV女優は79歳。若々しいですよ。施設にいる私の母と同い年とは、とても思えないほどです。

 一般に、年を取ると誰かから興味を持たれたり、褒められることも減っていく。でも、それはまだいいんです。本当につらいのは、誰からも求められないこと。今回は、性サービス業の高齢女性にスポットを当てましたが、何らかの仕事や役割を担っている人、ちゃんと人から求められている人は、自負や自信、誇りを失わずに、それが若々しさを保つ一因にもなっている。「人から求められて生きる」って、老いるほど、とても重要なことになるのだと思います。


『老人たちの裏社会』