[連載]そうだソルティー京都、行こう

京都・高雄で発見、本堂が閉まりっぱなしの謎の寺! “まんじりと見張られる”拝観体験

2015/08/17 19:00

 本堂へ上がる階段に、小さい看板が置いてある。それによると、「拝観・朱印のご用の方 恐れ入りますが左側の玄関入り口のインタホンにてお知らせ下さいますようお願いいたします」という。看板の隣にボタンがあるので押してみたけど、うんともすんともなんともならず。「玄関」とはどこなのか。

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左側へ向かう
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2軒先のおうちに玄関らしきものが見える……これかな?

 肝心のインタホンに注意書きがないので、ちょっとドキドキしながら押してみる。「は、拝観したいんですけど……」すると、「本堂でお待ち下さい」と言われ、「ここでよかったんだ!」という安心感を得て本堂に戻ってみる。しばらくすると、トタトタトタ……と木の廊下を走る音がした。

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開いた!

 中に入ると、トタンバタンと、本堂中の雨戸(?)を開ける音がする。なんと、昼も過ぎたいい時間だというのに、自分が来るまでなんの用意もしていなかったようなムード。そう、西明寺は自分が来るまで本堂を開けずに待っていてくれる、あなただけのプライベートテンプルなのだ。

 高雄が本領を発揮するのは、紅葉の季節だ。山は真っ赤に燃えさかり、1年でもっとも美しい(んじゃないかな、混んでそうなので行ったことないんだけど)。この季節を外すと高雄は、どんなに祇園のあたりがもじゃもじゃとごった返していても人にまみれることはない。

 とはいえ、神護寺でも高山寺でも、行けば誰かとすれ違うし先客がいた。なのにこの西明寺、来るたび本堂は閉まっており、インタホンで人を呼んで開けてもらうプライベートテンプル状態なのだ。神護寺に行ったときにすれ違った人たちは、一体あれからどこへ向かったんだ?


 で、来るたび、本堂にいる間にあとから人が来て拝観していく。想像するに、ちらっとやってきて、「あ、閉まってる」と思い引き返してしまう人は結構いるんじゃないか。

 そうじゃなくても、「絶対本堂を見る!」という強い意志を持たなければ、2軒先のお宅まで足を伸ばして、ここでいいのか迷うインタホンを押す勇気は出ないでしょう。日本人って奥ゆかしいし。

 しかしここは勇気を出してほしい。入れば自分のため(だけ)に本堂を開けてくれ、ご本尊様を目の前で見ることができるのだ。

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そして本堂から眺める中庭の美しいこと

 誰もいないプライベートテンプルで、中庭を眺めて静かな時を過ごすのもいいだろう。……ただし、本堂にいる間中ずっとまんじりと西明寺のおうちの方が入り口で待っているので、ここで1~ 2時間つぶすには、そうとう他人を意識しない鉄の心臓が必要である。

 神護寺は神護寺で、高雄のバス停からだとひと山降ってまた登った先にあるので、結構な運動をものともしない頑丈な心臓が必要である。高山寺へ向かう道には歩道がなく、ビュンビュントラックが走り抜ける片道1車線の細い山道(これがなぜかかなりの交通量なのよ)を歩く強い心臓が必要である。決して歩行中に両手を広げたりしてはいけない。


 これら2つの高雄のお寺が心臓試しのお寺であるため、西明寺もきっとそれに倣って独自の心臓試しを作り上げたのだ。それがこのプライベートテンプルシステムなのだろう。

 ということは、この西明寺での正しい過ごし方は、「自分のために開けてもらった本堂で人を待たせているにもかかわらず気にしないで強い心を持ち2時間過ごす」である。……いや、とか言って自分はプレッシャーに負けて20分でリタイアしましたが。

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター、少女漫画研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。街で見かけたおかしな英文から英語を学ぶ「Henglish」主宰。

最終更新:2019/05/21 18:35
『るるぶ京都15~16(るるぶ情報版(国内))』
(あ~もうテレビ見てたのに)という声が聞こえる