後藤健二さん実母へのバッシングで問われる、被害者家族へのマスコミの姿勢
選挙直前に人質事件が発覚すれば選挙に影響が出る。そのため外務省が妻とシリア人の現地ガイドに厳重に口止めした。常岡は現地ガイドからこれをはっきりと聞いたというが、これは安倍政権と自民党にとって選挙に利する行為だ。
自国民の人命より選挙――。実際、常岡は「選挙前に拘束の事実が明らかになっていたら、日本政府はもっとまじめに助けていたかもしれませんね」とのコメントをしている。
事件発覚後、政府の無策が指摘されたが、それは昨年の湯川さん拘束以来続いてきたものだと証明された形だ。湯川遥菜さんが拘束されたのは昨年8月、そして12月2日には後藤さんの拘束も政府は知っていた。この間、水面下で解放の交渉をしていたとすれば口止めも説明がつく。しかし、現在明らかになっているのは、政府が有効な対策をとらずに2人を放置し、また常岡たちの湯川さん救出を妨害すらしたという恐ろしい姿だ。2人は政府によって見殺しにされた。この記事は後藤さん殺害以前に書かれたもので、直接的な政府批判などもないが、その一端を伝える記事だった。
次は「週女」。やはりバッシングを受けた後藤さんの実母をクローズアップしたもので、実母をいわば擁護して、その“本心”を代弁した記事だ。この記事で目を引くのは被害者家族に対するマスコミのあまりに無神経で失礼な姿勢だ。
「健二さんが無事に戻ってくることを願っているか」
ある記者の質問だ。あまりに当たり前で、捻りもない。これに対し石堂さんは「愚問ではないでしょうか?」と穏やかに切り返した。さらに「イスラム国は何をするかわからないと思うが…」「健二さんが死んだら?」などと言語道断の質問さえあったという。こんな無神経の質問を浴びせられ、バッシングされる母親。
今回、石堂さんが奇異の目でみられたのは、彼女の話が原子力の話に脱線したからだ。心ない一部の人々は石堂さんの会見での脱線を根拠に批判に走ったが、これについて「週女」は「子どもが処刑されるかもしれないというときに、冷静な判断力で必要十分な受け答えだけできますか」との全国紙社会部記者のコメントに加え、夫・行夫さんの「ちょっと正気を失っている。年齢も年齢なのでカンベンしてやってください」との悲痛なまでの声を掲載した。そもそも子どもが殺害される恐れが強いと言われて、冷静な親がいるだろうか。言動がおかしくなっても当然だ。
「週女」は石堂さんは平和主義で牧歌的な性格で、「事件と関係ない原子力の話を持ち出したり、必要以上に陽気なのは無意識の行動だろう。母親としては、そうでもしないと精神のバランスを保てないのではないか」と解説し、その心中を察している。まあ、真っ当な記事だ。