化粧も加工も同じ――「NYLON JAPAN」編集長が語る、自撮り女子の自意識と“かわいい”の見せ方
――「自然体であること」が青文字系雑誌の女子の間でブームだったことがありますが、「加工してかわいく見せる」に違和感を抱かない現在の女子にとっての「かわいい」の基準は何だと思いますか?
戸川 そもそも「自然体であること」は、「自然体であるように見えること」ですよね。すっぴんメイクは、「すっぴんのように見えるメイク」。極論を言えば、ヤマンバメイクもすっぴんメイクも自己主張という意味では変わらないと僕は思います。同じように、自然体であることも、写真を加工することも、「かわいくありたい」という意味では差はないのではないでしょうか。
「NYLON JAPAN」では、“モテ”特集をすることはないけれど、僕は女の子の心理として、みんな男性からモテたいと思っているのではないかと考えています。「NYLON JAPAN」読者だって、モテたくないわけではない。誰だってモテたいし、かわいくなりたいという願望は、ずっと変わらず誰でもあるものだと思います。「NYLON JAPAN」のページを制作するとき、ファッションは企画によって、ぶっ飛んだスタイルでもいいけど、ヘアメイクは「ぶっ飛んではダメ」と、よく編集部で注意しています。髪型で多少遊んだとしても、顔周りは男性視点で、かわいく見える域を出ないように、と。普通に男目線でも女目線でも、リアルにかわいい方がいいと思っています。
――かつて女性ファッション誌には、「男目線を意識したファッション」VS「男目線を意識しないファッション」という対立項がありました。しかし、今はそうした対立構造すらないということでしょうか。
戸川 そうですね。対立させて議論すること自体がナンセンスというか、なぜ議論しているの? と思います。自撮りをする派としない派で、周りからわざわざ対立構造を作るのも、おかしいと思いますよ。事実、女の子たちが、ファッションやライフスタイルにおける「○○系」といったタイプごとにつるまなくなったように感じています。「親友とファッションセンスが全然違う」という子も珍しくなく、同じグループの中にいろんなタイプがいても抵抗がないんです。今の若い子は、自由だと思いますよ。
――その“自由さ”は、やはりSNSの普及が影響しているのでしょうか。SNSによって「共感してくれる誰か」が増えたことで、かえって「自分とは違う他人」を許容できるようになったというか。
戸川 そうですね、「あの子はこういうのが好きだから」と認めている感じです。今までは、隣町に住む人でさえ知り合うことが難しく、女の子たちは狭い学校のクラス内で共感する人を探さなければならず、ひとりぼっちになってしまうこともあった。けれど、今はSNSによって、それこそ国境を越えた人とつながることもできるので、やはり「どこかに共感してくれる人がいる」という思いがあるようです。それが臆せず自撮りをアップする女子の根底にあるのかもしれませんね。
(取材・構成=安楽由紀子)
戸川貴詞(とがわ・たかし)
1967年、長崎県出身。日之出出版、トランスワールドジャパンを経て、2001年にカエルムを設立。03年4月、「NYLON JAPAN」を創刊し、現在、同誌編集長ほか、「SHEL’TTER」編集長、カエルム代表取締役社長を務める。
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