「セックスによって男を食い殺す女」怪談×エロスの作家・岡部えつが語る“女の恨み”
“セックス”をテーマの1つに小説を執筆している女性作家たち。彼女たちは男や恋愛、セックスに対して、人よりも強い思い入れ、時に疑問やわだかまりを抱えていることも。小説にして吐き出さずにはいられなかった、女性作家の思いを、過去の恋愛や作品の話とともに聞く。
【第4回】
岡部えつ/『紅筋の宿』(実業之日本社『果てる 性愛小説アンソロジー』より)
取材のため訪れた田舎の温泉地で、道に迷ってしまったトラベルライターの男。電話を借りようと、一人住まいの女の家を訪ねたところ、「どうぞうちに泊まってください」と、風呂と食事を振る舞われる。女は夫が失踪した話をしながら、男に擦り寄ってくるが、男は足袋を脱いだ女の右足に、小指以外の指がないことに気がついて……。
――今回の『紅筋の宿』にも“右足の小指以外がない”という、生身の人間なのか、そうでないものなのかがわからない女性が登場しますが、岡部さんは以前から「怪談とエロス」というテーマで小説を書かれていますよね。きっかけはなんだったのでしょうか。
岡部えつさん(以下、岡部) 私は第3回「『幽』怪談文学賞」という、怪談がテーマの賞を受賞してデビューしました。執筆する前、「私が書ける怪談ってどういうものだろう?」と考えたとき、以前から書いていた男と女の話って、怪談と結びつきやすいなと感じました。書いてみたらとても面白くハマッたんです。古典的な怪談も、男女間での裏切りなどがあって、そこで生まれた情念によって女性が幽霊と化すというのが多いですし。そのときの受賞作が『枯骨の恋』という作品なのですが、その単行本を作っていただくときに、「ほかのお話もエロスと怪談でいきましょう」となり、その後も書くようになりました。
――『紅筋の宿』で、身体の一部が欠落している女性を書こうと思ったのはなぜですか。
岡部 作品内では「折り指」という、「飢饉のとき、女が男子どもに自分の指を食わせて飢えをしのがせた」という言い伝えを設定しています。これには、昔、人々が飢えに苦しんだとき、真っ先に犠牲になったのは女だったんじゃないだろうか? という思いがあって。「折り指」は私が考えたオリジナルの伝説なのですが、もしかしたら実在するかもしれない話だと思いますね。
ただ登場人物の女性は、自分が犠牲になることを苦だと思っていない。本当はつらいことなのに、「自分が進んで男子どもを食わせてきた」と誇りを持つことで自分を奮い立たせているというか。それも非常に歪んだ誇りなんですけどね。