バチカンが同性愛肯定へ……「伝統」を疑い、新しい家族像を考えよう
カトリック教会の総本山であるローマ法王庁(バチカン)は、家族のあり方に関する教義を見直す「世界代表司教会議」を開き、10月13日には、事実婚カップル、離婚、再婚、同性愛などについて、今までよりも肯定的に捉えるべきだという報告書を出した。これはカトリック教会の歴史の中では、画期的な出来事である。
カトリック教会は長年これらを禁じてきたのだが、バチカン改革に取り組む現在の法王フランシスコは、現実と乖離しすぎているとして、家族への考え方を現在の信者の生活に合ったものに変えていこうとしているのである。そしてフランシスコ法王は、これまでタブーとされてきたシングルマザーや離婚者の再婚、事実婚カップルなどの結婚式をバチカンで主催し、内外へのアピールもしているのだ。とはいえ、伝統を重視する保守派からは反発する声もある。この中間報告を経て、最終的な結論は2016年前半に出るだろうと言われているが、時代の流れを無視することは難しいだろう。
そもそもカトリック教会の「伝統」が、正しい家族の姿だというわけではない。キリスト教が布教されるまでのヨーロッパ世界での家族観には、さまざまな姿があった。例えば古代ローマやギリシャは、有名なローマ神話やギリシャ神話があるように多神教であったし、同性愛をタブーとするものではなかった。
一方キリスト教徒の少ない日本ではあるが、明治維新以降、キリスト教に基づいた欧米的な価値観が一気に広がったため、純潔思想(処女信仰)や同性愛嫌悪なども広がってしまった。それまでの日本は同性愛には寛容で、男性同士の関係「衆道」は、崇高なものとすら思われていたのだ。
さてそんなカトリックの総本山さえ同性婚などを見直すべきだといっている時代に、日本では同性婚どころか、夫婦別姓や事実婚カップルの法整備すらされていない実情である。日本ではあまり知られていないのだが、06年にカナダのモントリオールの国際会議で「レスビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの人権についてのモントリオール宣言」が議決され、同じく06年にインドネシアのジョグジャカルタの国際会議では「性的指向並びに性自認に関連した国際人権法の適用上のジョグジャカルタ原則」が採択された。これらの影響もあり、国際的にセクシュアルマイノリティの権利について考える動きも広がっているのだ。
アメリカでは、多くの州で同性婚が認められるようになっており、フランス、オランダ、ベルギー、スペイン、ポルトガル、カナダ、南アフリカ、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、デンマーク、イギリス、ルクセンブルク、ニュージーランドなどでも認められている。ほかにも同性婚ではなくても、同性カップルに対し法的権利を認める動きは、ドイツ、イタリア、オーストリア、スイス、フィンランド、チェコ、ハンガリー、クロアチア、イスラエル、コロンビアなど、多くの国に広がっている。
このカップルの法的権利は、法律婚までは望まない男女カップルにとっても使いやすい制度であり、この制度がある国のほうが結婚制度へのプレッシャーが少ないために出生率が高くなることもある。私自身も、夫婦同姓の法律婚よりも、夫婦別姓かカップルの法的権利のほうがよほど気楽なのにといつも思う。また現時点では日本の同性カップルは養子縁組制度を利用することで疑似結婚をするケースもあるが、例えばそのカップルが子どもを養子に迎えたいと希望してもそれは難しい。
■他人への理解が、自分の逃げ道となることも
さて、国民の7割がカトリック教徒であるスペインだが、04年~11年に首相だったサパテロが、離婚法の改正や妊娠中絶法の緩和、同性婚法などを成立させた。この法律ではお互いの財産を相続させるだけではなく、同性カップルが子どもを養子にとることも可能になった。05年に同性婚法が成立したときの、サパテロ首相の演説を紹介しよう。