【連載】彼女が婚外恋愛に走った理由

アラサー“王子”とセックスした四十路の母ちゃんが語る、「不倫」が意味するもの

2013/12/22 19:00

 人懐っこく愛らしい微笑みを浮かべながら、里歌さんはそう言った。たった一度の逢瀬。その後もたびたび王子から誘いがあったが、里歌さんは頑なに拒み続けたそうだ。王子に抱かれた直後、「足を踏み外すのは、最初で最後にしよう」と、彼女は強く決心したのだという。

「セックスを終えて、2人で布団にもぐりながら話をしていた時、女になっている自分を冷静に振り返って、無性に恥ずかしくなったんです。やっぱり私は、家で子どもたちの世話を焼いている母ちゃんの姿の方がしっくりくる。人生の半分を“母”として過ごした私は、もう女に戻れなかったんです」
 
 「王子は里歌さんに好意を抱いていたように感じるのですが……」と聞くと、里歌さんはけらけらと笑いながら、こう答えた。

「とんでもない! 酒の勢いでなんとなくエッチしたくなっちゃったんでしょう。彼にとっては事故みたいなものです。あの日のことはとても素敵だったけれど、思い出すと、うれしいのと同時に恥ずかしくて」
 
 その後も王子は変わらず同じ会社に勤め続け、里歌さんは毎日その綺麗な横顔を拝んでいる。家事と仕事に追われ、忙しさに泣きたくなる夜は、王子にもらった言葉の数々を反芻しているという。

「可愛いです、綺麗です……だぶついた体を丁寧に抱きながら、私を褒めてくれました。あの夜があるから、私は頑張ることができます。彼との一夜は、私にとって何よりも代え難い宝物です」

 今まで話を聞いてきた婚外恋愛経験者と里歌さんは、少し違う。人生の半分を“母”として生きてきた里歌さんは、“女”ではなく“母”でいる自分にしっくりきているようだ。一方で、王子からの褒め言葉を反芻してしまう“女”の一面も確かに根付いているのだが、その思いを押し殺しているのは、やはり大切な家族に対する罪悪感なのだろう。


 目の前に甘い恋愛を掲げられ、一度は過ちを犯しながらも、懸命に“母”を貫き通す里歌さん。10歳以上年が離れた王子が惹かれた理由は、彼女の中に、母の自分を守る頑なさや、決心が見えたからかもしれない。

 「母は、恋愛をしない」。そう彼女は感じているから、無意識のうちに「不倫」という言葉を使う。「不倫」という言葉を使えない婚外恋愛者たちにとって、彼女の生き方は心に刺さるのではないだろうか。
(文・イラスト=いしいのりえ)

最終更新:2013/12/22 19:00
『よりぬき毎日かあさん』
これぞ神様がくれたボーナストラック……!!