[連載]悪女の履歴書

恋愛感情と金銭、男への嫉妬が交差する「上尾主婦レズビアン殺人事件」

2013/08/17 18:00
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Photo by mxmstryo from Flickr

世間を戦慄させた殺人事件の犯人は女だった――。日々を平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。彼女たちを人を殺めるに駆り立てたものは何か。自己愛、嫉妬、劣等感――女の心を呪縛する闇をあぶり出す。

[第15回]
上尾団地主婦レズビアン殺人事件

 現在ヨーロッパやアメリカ、南米など多くの国で同性愛者同士の結婚が認められるようになったものの、近代において同性愛、特にレズビアンは奇異な目で見られてきた。それゆえレズビアンを巡るいくつかの“事件”も起こっている。

 明治44年、新潟県糸魚川町海岸で20歳の女性2人が入水自殺した。2人は女学校の同級生で、周囲からも同性愛関係だったとわかるほどの親密さだった。だが卒業後女性1人に縁談が持ち上がり、それを悲観して糸魚川から身を投げたといわれている。大正14年には未成年の女性2人が多摩川に入水心中をした。また昭和24年には、都内女子大学の校舎から、2人の卒業生が飛び降りた。これも女性の1人が幼い頃からの婚約者と結婚させられようとしたことがきっかけだった。

 これら心中は、同性を愛したゆえ自分たちの将来を悲観しての、“純愛心中” “情死”の範疇に入るものと思われる。だが時代は移り、心中ではなく相手を殺すといったレズビアンによる痴情殺人事件も出現するようになった。その契機となった象徴的な事件がある。それが昭和52年に起こった「上尾団地主婦レズビアン殺人事件」だ。


 昭和52年7月29日、埼玉県上尾市の団地に住む主婦・福田佳子(仮名/35)が夫に連れられて上尾署に出頭してきた。佳子はかなりの興奮状態で「死なせて!」「もうお終まい!」と泣き喚くばかり。ようやく「同じ団地の主婦を殺した」との供述を得た警察が、市内病院に収容された同じ団地の主婦・斉藤愛(仮名/36)の死亡を確認、佳子は緊急逮捕となったのだ。

 明らかになった事件は衝撃的だった。2人の女性は同性愛の関係で、殺害動機には別れ話や金銭問題、そして嫉妬やセックスに対する不満まで浮上したからだ。

■「適齢期になれば男と結婚」という常識

 佳子と愛は同じ団地の同じ棟に住む主婦仲間だった。佳子には2人の、愛には3人の幼い子どもがいた。当初は挨拶する程度だったが、子どもの幼稚園が一緒になったことから急速に親しくなっていく。佳子の夫は不動産業を営み経済的には恵まれていたが、そんな男にありがちなことに愛人が存在した。夫はほとんど愛人宅で生活して、家にはあまり帰ってこない。そんな佳子は愛に夫の浮気を相談するようになる。すでに両親を亡くしていた佳子にとって、愛は唯一心を許せる存在となっていったのだ。次第に佳子は、愛に友達以上の感情を抱くようになる。

 事件の2年ほど前のことだった。佳子は愛を冗談っぽく誘ってみた。キスしてみる? 女同士ってすごいんだよ、と。意外にも愛はそれに応じてきた。女同士のセックスは刺激的で濃厚だった。そして何時間も絡み続けた。それからの2人は、いつも一緒に行動した。一緒に夕飯の買い物をし、ショッピングをした。お互い手を握り合い、腕を組んで団地や商店街を歩いた。そして子どもや夫が不在の昼の団地で情事を重ねた。3日に1回はラブホ(当時のモーテル)に行った。深夜遅くまでどちらかの家で酒も飲んだ。


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