「タレント本という名の経典」

母と娘のいびつな相思相愛――「女の賞味期限切れ」を宣言した西川史子の危うさ

2013/07/15 21:00

 独身時代、西川のウリは「年収4,000万の男でないと結婚しない」であったが、もし本気で理想の結婚相手を探そうと思っていたとしたら、テレビに出ることは得策ではない。テレビは影響力が大きいだけにマイナスも大きい。西川のターゲット層である年収4,000万の男性は、「代々の富裕層」か「成り上がり」かのどちらかだろうが、前者の保守層は、テレビで下品に振る舞う西川を嫁にしないし、後者の成り上がりでは元来育ちのいい西川と話が合わない。事実西川には、テレビ出演をしてから、変な自信家や、見栄っぱりばかり寄ってきたそうだ。つまり、西川はテレビに出ることによって、年収4,000万男を自ら遠ざけたのである。家族や職場などにも影響はあったはずだ。西川の実家は開業医だが、あの西川のキャラが、医院のイメージアップになるとは考えにくい。それなのになぜ親は、娘の「暴挙」を止めなかったのか。その答えは、西川の母自身にあるような気がしてならないのだ。

 西川は一般人男性と結婚したが、夫の家出を生放送で告白するなど、夫婦仲が円満とは言い難い。娘の離婚危機は親にとって深刻な問題だが、注目すべきは、本書に散見される、西川母の「言い分」である。西川母は「医者にもなれました。みんなが出たいTVにも出ています。それ以上の幸せを望んじゃだめです」「結婚は修行です」「この結婚を手放すと、修行の場を失ってあなた自身が病気になったりします」と諭す。これは「あえて不幸を背負うことでバランスを取り、現在の幸せをキープせよ」という意味であり、西川母は、娘の結婚生活の充実よりも、テレビに出ることを重要視しているように思えてしまうのだ。

 松田聖子、中森明菜、前田敦子など、時代を代表するアイドルの背後には、芸能界を夢見た母が存在するが、これは決して偶然ではない。本人がアイドル志望であることは間違いないが、娘は同性である母の気持ちがわかるだけに、母の果たせなかった夢を自分が叶えて、母を喜ばせたいと願う。タレント活動を止めさせないばかりか、自らもテレビに出だした西川母も、若かりし頃、芸能界を夢見た1人だったかもしれない。もしそうならば、その意を汲んだ西川が、テレビに出ている現状がうれしくてたまらないはず。つまり西川がテレビ出演をするのは、どこかで西川の母親のためでもあるのではないだろうか。

 芸能活動をする上での西川のウリは、言うまでもなく「医者であること」だが、本書を読むとこの効果的な「名刺」を作りだしたのも、西川母であることがわかる。開業医の西川家において「優しい性格」の兄が医者にならない以上、西川が医者にならねば、母親は子どもを1人も医者にできなかった「ダメ母」の烙印を押され、医院は廃業に追い込まれて経済的基盤を失う。故に、あらゆる意味で、西川は医者にならねばならなかった。

 そのために西川の母は、なりふり構わぬ形で娘を勉強させる。「百点取ったら1万円、勉強さえしていれば小遣いはいくら使ってもいい」がその一例である。西川は母の教えを守り、努力を重ねて医者になる。その道程が過酷で達成する目標が難しいほど、母は「私は正しい」と自信を深め、娘は「お母さんは間違いない」と全幅の信頼を寄せる。西川はかつて六股をかけていたそうだが、これもリスクヘッジのための母の教えだという。西川は高飛車なビッチではなく、従順で、どんな達成目標もさらりとクリアする優秀な営業マンなのだ。


『女盛りは、賞味期限が切れてから』