「タレント本という名の経典」

元バッシング女王・柴田倫世が、「ママ」を味方に変えたテクニックとは?

2012/02/27 16:00
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『「子育て」と「ママ」の上手な関
係。』(柴田倫世、ベストセラーズ)

――タレント本。それは教祖というべきタレントと信者(=ファン)をつなぐ”経典”。その中にはどんな教えが書かれ、ファンは何に心酔していくのか。そこから、現代の縮図が見えてくる……。

 今回ご紹介するのは、元日本テレビアナウンサーで、現在は3児を育児中の柴田倫世が書いた『「子育て」と「ママ」の上手な関係。』(ベストセラーズ)。柴田といえば、かつては”女の敵”というイメージだった。1998年に日本テレビに入社し、00年当時交際中の松坂大輔が、球団名義の車を柴田の自宅マンション前に停めて密会、駐車違反を犯した。松坂は、その1カ月ほど前にスピード違反を犯し免許停止になっていたため、身代わりとして球団広報課長が出頭。週刊誌の報道により、松坂は道路交通法違反、広報課長は犯人隠避の疑いで書類送検された。この騒動にプラスして、柴田は松坂よりも6歳年上だったこと、「ロケットおっぱい」と呼ばれ世の男性からチヤホヤされていたこと、当時女子アナと野球選手の玉の輿婚が多かったことなどから、「また女子アナがウブな野球選手をたぶらかして……」という見方をされていた。

 04年結婚、日本テレビを退社し、05年12月に第1子、08年3月第2子、10年第3子を出産。06年4月には子育てブログ「育児ダイアリー」を開始した。本書は、そんな彼女の子育て論、育児に役立つアイデアなどをつづったエッセイである。てっきりブログをまとめただけのものかと思いきや、ブログを引用し、それを書いた当時を振り返って今考えていることなどをかなり加筆してある。意外にも文字が細かくぎっしり。そこが、彼女が”女の敵”から脱却し、ママタレとしての地位を確立できたポイントである。

 もともと柴田のブログは文章が長い。タレントのブログというと、たとえば料理の写真を載せて「おいし~」とか、洋服の写真を載せて「今日のファッションです」とか、写真にひとことふたこと書き添えるくらいのものが多い。だが、柴田の場合、ほとんど毎回700~900字はある。それくらいの文量だと、”日記”というよりひとつの”コラム”。たとえば、本書にも収録されている2011年9月2日の「休みの日に限って」というタイトルの記事。

「どうして子供って休みの日に限って早く起きるのでしょうか? 学校がある日は何度も何度も起こさないとなかなか目を覚まさない姫と殿(※長女と長男の通称)。(中略)休みになると姫は朝5時台に必ず一度は目を覚まします。
 そして『ママ~、見といて~』。寝ぼけている私は『う~ん』と曖昧な答えでごまかし再び眠りにつきます。そして6時、隣のベッドで再びガサゴソし始める娘、着替えたり、電気をつけたり消したり、ドアを開けたり閉めたり、心の中で『もう勘弁して~』と叫びながらも半分寝たふりをする私」

 という話が700字超続く。その中で寝不足や子どもの便秘、断乳(母乳をやめること)などの悩みが吐露される。更新頻度は1カ月に8回以下と少ないが、有名人の育児日記を本気でじっくり読みたいという人には、1日何度も「おいし~」「今日のファッション」という他愛のない文章がアップされるより、1週間に2度、読み応えのあるブログがあったほうがうれしい。


 なぜうれしいか。それは、読者もともに子育てについて考え、語りたいからである。読者は子どもを持つ女性が多いのだが、コメント欄を見ると、どちらがブログか分からなくなるほど長い。「倫世さんこんにちは。たいへんでしたね(←などのブログの内容に即した感想や質問が一文入る)。我が家でも……」「こんにちは。お子さんかわいいですね。うちの子は最近……」と、タレントが主であるブログということはおかまいなしに、自分の育児について語る、語る、語りまくる!

 育児はしばしば人を饒舌にする。苦労や悩みが多いし、どこにも解答はない。親子が100組いれば100通りの方法論がある。だから、みんなスキあらば語りたくてうずうずしている。機会あらば聞いてほしい。その上、聞いてくれる相手が有名人。ときどき名前を挙げて感想を書いてくれるので優越感にも浸れる。ひとこと「今日のファッションです」と書いてあるだけのブログだったら、読者は「かわいい~」くらいしかコメントを書けない。だが、書き手が長文ならば、その分いい意味でのツッコミポイントが多くなる。柴田は、読者に「語ってください」と言わんばかりにネタを提供してくれているのである。

 さらに、柴田は子育てに心身とも疲れ果てたときの表現が実にうまい。この点には、筆者も本書を読んでかなり心をつかまれた。

「3人同時にぐずられると脳が呼吸をできないような感覚にとらわれることがあります」
「子どもの泣き声は、何度も私の胸を締め付けました。(中略)叫びにも似た声を聞き続けて、頭の細胞がぐちゃぐちゃになってしまいそうな気持ちに何度もなりました」
「仕事のときは時間がもったいないとでもいうように急いで歩いていたので、子どもと歩いているとき、子どものペースに合わせることで疲れてしまっていたことがあります」
「上の子の赤ちゃん返り…二度と経験したくない悪夢です(涙)」

 といった、ふつうは他人におおっぴらに言えないような子育ての負の感情を巧みに書き表している。「そうそう、なかなか他人には言えなかったけど、まさにそんな感じ!」と共感を持つ読者は多いのではないだろうか。こうした感情を有名人と共有できるというだけでも、なぜかうれしいもの。一方、タレント側にしてみれば、イメージを考えたらこうした感情を詳細に語ることは避けるべきかもしれない。だが、柴田はイメージよりも読者の共感を得るほうを選んだといえる。


 「私は元々書くことが苦手でした。学生の頃は文章を書くのが苦痛で仕方なかった」と書いているが、実はかなり文才があるのではないかと思う。文才といっても、美しい文章やおもしろい文章であるということではない。ただ、前述のように、本人は意識的なのか無意識なのか分からないが、読者を引き込むという才能を持っている。かつてさりげなくロケットおっぱいを強調して、おじさん方の目を釘付けにしたように……。嫌われ女子アナの大逆転である。

 現在、ママタレント業界は飽和状態だ。あっちもこっちもデキ婚して参入者はやたらたくさんいるが、みんなフワウワ、ウキウキ、お花畑に住んでいるようなタレントばかり、差別化が図れていない。世の中、芸能人がプロデュースした子ども服を嬉々として買う母親ばかりではない。そんな中、柴田は決して派手な存在ではないが、隙間的な”ある種のママ層”を抑えた。その層とは、子育てに一生懸命でまじめで語りたがりで、そしてちょっと疲れている母親たち。ただし、そういう人たちは、ちょっとでも文章が上から目線だったり、セレブ臭が漂ったり、商売っ気が見え隠れしたりすると敏感に拒否反応を起こすので、そこのところは注意が必要だろう。間違っても子ども服をプロデュースしないように……。
(亀井百合子)

『「子育て」と「ママ」の上手な関係 』

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最終更新:2019/05/17 20:57